熊の人形を抱きしめた。何であの子は私がほしいものを簡単に手にできるのだろう。

 一人暮らしのベッドの上で、顔を腕に埋めている。キッチンの流しから閉めきれていなかった蛇口から水が垂れていた。部屋は暗く、私の啜り泣く声以外無音だった。


 どんだけ頑張っても、あがいても私には手に入らない。唇を噛み締める。羨ましい。悔しい。なによりも、勝てると思い上がっていたことが恥ずかしい。じゅくりと目が滲む。もふもふの熊さんを抱きしめた。熊さんだけが私を愛してくれる、そう考えてため息を吐いた。

 携帯がボヤリと明るくなった。午前四時。思わず携帯を手にするが、迷惑メールだった。いかがわしい女性から相手を誘う内容。私もこれくらい分かり易ければどうにかなったかもしれない。プライドを捨ててもっとしたたかに、計画的に動くことが必要だった。暗くなった画面に酷い顔が映る。お気に入りの口紅をつけて玉砕した私。袖口で拭った。

 数打ちゃ当たる。チャンスは動かないとこない。分かってる、分かってる。うるさい。私は携帯を壁に向かって投げた。


 カーテンの隙間から朝日が漏れる。寝れなかった。あっという間に時間は過ぎる。目を擦りながらため息を吐いた。また今日も顔を合わせないといけないのか。仕事に行きたくない。こんな泣きはらした顔、不細工すぎて見せられない。太陽なんて昇らなければ良いのに。ずっと夜なら顔なんて見えないから。ベットに顔を埋める。頭をかいた。

 アラームが鳴った。ぼーっとしてた。少し寝てたらしい。布団が濡れている。アラームを止めるため携帯を探す。洗濯物が寄せてある壁に落ちていた。拾い上げて時間を確認する。あ、もう動かないと。シャワーを浴びる。鏡に写る私は不細工だった。思わず笑う。あーあ、仕方ないや、これは。不細工だもん。あーあ。

 タオルで体を拭いて、スーツを着る。下地とファンデーションで顔の赤みを隠した。足が痛くなる靴を履いて私はドアを開ける。まだ朝になりきれてない空はすきっと晴れていた。お気に入りだった口紅はどこかに消えていた。もう分からない。行きにドラッグストアに寄ろう。口紅はもう要らない。ちょっと良いリップクリームでも買おう。もういい。あの人に恋敵がいただけよかったのかもしれない。それだけ素敵な人だった。口笛を吹く。

 もしかしたら、素敵な出会いなんてあるかもしれない。そう、思った。