クロが死んだ。

 いつも片時もそばにいた相棒がいない。その日からベッドに入っても眠れない日々が続いた。硬いパンを指先で転がして、食べないを繰り返した。無意識に空を見上げて、全く意識せず涙が溢れたりする。今思えば限界だったのかもしれない。


 しばらくして。ある夜、叔父が船に乗ることになったと呟いた。寒くて悴んだ手をさすっていた私は、ゆっくりと叔父に目を合わせた。続けて叔父は言う。

「船に乗って仕事をすることが決まった。ただ、お前を乗せることは出来ない」

 置いていかれるんだ、私は驚きを隠せなかった。涙がポロポロと流れる。声は出なかった。私の話をちゃんと聞いてくれる人はもう誰もいない。

 クロがそばにいてくれたらいいのに。そう願っても、願っても、焚き火がパチパチと燃える音しか聞こえなかった。