私はとある村の、ちょっと他の子より好奇心が強めの子供だった。小さな旗をブンブンと振り回しながら一人で歩き回っているような、そんな子。街角の猫を追いかけてまわり怒られたり、壁に絵を描いて怒られたり。側から見たら孤立していたのかもしれない。愛犬のクロを引き連れていろんな所を駆け巡った。話は誰も聞いてくれない。うまく話せなかったから。

 そんな中、叔父さんだけが私の話を聞いてくれていた。クロの頭を撫でながら暖炉の前で一緒にスープを飲んだりもした。穏やかな低い声で名前を呼んでくれる。振り向いて近くに寄るとクロと同じように撫でてくれた。私は足をプラプラと揺らしながら叔父さんが読む物語が好きだった


 でも、そんなに長くは続かなかった。クロが居なくなってしまった。突然居なくなった。私なんかより頭の良い賢い子。お兄ちゃんのような存在だった。オレンジの縁取りの瞳。黒い毛並みに白い靴下を履いている。私の顔を見上げて小首をよく傾げていた。『どうした、何かあったのか』『何をするの?どこか行くのか?』尻尾をゆっくり振りながら座っている。最後のお別れは出来なかった。朝起きたら、土で汚れた叔父さんが暖炉の前で立ち尽くしていた。手に握られた赤い柄のスコップが、少し老けたように見える叔父さんの杖のみたいに見える。

 「クロは死んだ。腐ったらいけないから、土に埋めてきた。すまない」

 何も言えなかった。叔父さんはこちらを見ることなくスコップを片付け、椅子に腰掛けた。ぽたりぽたりと涙がこぼれるだけだった。