そこは宿みたいだった。だが、彼が言うには初めての客だそうで、私が座る場所にハンカチを置いた。
「どうぞ、何か……いや、何も出来ないんだけど」
 そう、頭を掻きながら申し訳なさそうに彼は笑う。私は濡れた服の裾を絞った。ポタポタと水が落ちる。
「何か食べるかい?それとも、疲れただろうから、寝るかい?」
 トンカチや木材を片付けながら、私に背を向け問いかける。その声は故郷に残してきた叔父を思い出させるものだった。ポタポタと膝が濡れる。
「おやおや」
 彼は私の前で膝を付き、微笑んだ。
「ゆっくり話してごらん。時間はたっぷりあるのだから」
 私は勇敢で怖いもの知らずのはずだった。なんなら、ワクワクしてたはず。それでも、溢れてくる涙を手で拭いながら声を出して泣いた。