むかしむかしある所に、明確に言うのであればクジラのお腹の中にその子はいました。空腹で潜り込んだ船が難破し、何の因果かその子がクジラの餌になっていました。肉の壁しか見えない頭上を見ながらため息を吐きます。
「あーあ、なんで私がこんな目に」
生暖かい水。クジラのお腹の中にいるのに、さっきまでいた海の中より安全な気すらします。少なくとも、凍死や溺死はしないでしょう。
むくりと起き上がり、伸びをしました。ゆっくり立ち上がり、クジラの口とは逆方向に振り向きます。そうだ、と。自然に口角が上がってなんだかワクワクしているようでした。
「さぁーて、探検でもしようかな」
どうせ、私はここで死ねのだから、と。彼女はバシャバシャと水を蹴り飛ばしながら、先に先にと進んでいきます。そう、この子には怖いものなんてなかったのです。