今日もクジラの心臓の音がする。間隔が短いから水面に上がっているのかもしれない。
 あれから辞典を乾かし読んでいた。完全に読めないところもあったが楽しい。あの人を知れると思うから。パタンと本を閉じた。
 きっと今日は雨が降るだろう。水面もたくさん揺れる。久しぶりに新しい木材が手に入るかもしれない。扉の側に置いた傘に手を伸ばした。ガタガタと家が揺れ始める。来た。傘を開け強く持ち、身を屈める。ぶぁっと天井が開く。少し空が見えた。今は夜らしい。遠くに小さな月が見えた。そして重なるように滝のような雨と魚と。
「今日は大漁だなぁ」
 ふふふと耳を押さえながら頬を緩める。
 ふと頭上を影がかぶる。音も聞こえなくなって、傘の端から空を見上げる。一隻の舟が落ちて、水面に当たるとともに大きな音が響き渡った。空が閉じる。固まる体と壊れかけの舟。
 それが初めての訪問者との出会いだった。火の消えたランプが揺れている。