どんよりと重い空に、灰色の煙が煙突から上がっていく。喪服を着た私は親戚の後ろを歩いていた。
 タカコお姉ちゃんが死んだ。交通事故だったらしい。らしい、っていうのも詳しく教えてもらえなかったから。周りがコソコソ話している噂話を聞いただけだから。
 男性も一緒に亡くなったみたいだった。
「ミツ、タカコが死んだんやて」
 母親からの電話で知った。電話越しでも分かる、鼻のすする音。舌ったらずの甘ちゃんな母親は大層タカコお姉ちゃんを愛していた。可愛かったから。なんてそんな理由でと思われる様なことだか、鏡に映る自分の顔を見て視線を落とす。私はいつもお姉ちゃんと母親の後ろ姿を見ていた。でも、タカコお姉ちゃんは母親に依存していなかった。むしろ嫌っていたかもしれない。車の免許を早々と取り、家を出ていった。誰にも相談もなく決めてしまった。
 私とはどこもかしこも違う姉。そんなお姉ちゃんが死んだ。わたしは正直安堵していた。これからは頑張らなくても母親は私を見てくれる。そう信じていた。
 現実は違うんだな。そんなことなかった。母親はギリギリまで棺桶から離れるのを拒んでいた。今も火葬場の姉が焼かれている扉の前に佇んでいる。まるで抜け殻のようだった。
 今雨が降れば、お姉ちゃんの灰がまた戻ってくるだろうか。涙一つも流れない空を見上げる。手に持つケータイには一向に雨の予報は来なかった。