トテカン、トテカン。クジラの腹の中、リズム良くトンカチの音が鳴っている。
薄汚れたシャツに少し大きめのズボン。腕まくりをして額を擦った。細く長く息を吐き、手を止めずにトンカチを振り下ろす彼の目はイキイキとしている。あの本は常に近くに置いてあった。
家を作ろう。そう考えたのはいつだったか。本を手にしてからか、もうここから出れないと思った時か。何はともあれ、幸い材料には困らなかった。木片ならいくらでもある。乗ってきた舟を基準に組み立てていく。まるで秘密基地のようだった。トテカン、トテカン。黙々と手を動かす彼は心底楽しそうだった。
最後に彼は釘でこう削った。『お金は要りません。役に立ちませんから。必要なのは貴方の物語。聞かせてください。息子に出会えた時の土産話にいたします。どうぞ、おすわりになってください。まだまだ時間は沢山あるのだから。』彼は満足そうに微笑んだ。