小説「恋するプリンセス ~恋してはいけないあなたに恋をしました~」あらすじ&目次

章別のまとめはこちらから

15 再来
第187話 強大

 

 

  ◇

 まもなく夜も明けようとしていた頃、サンの案内でリアム国王とローンズ王国の騎士団五十名は東の森に来ていた。先頭にはサンを乗せたアリスとリアム国王が馬でゆっくりと歩いている。

「魔力が濃くなった。もうすぐだな」

 リアム国王の言葉にサンが頷く。リアム国王が右手を上げると、後ろに付いていた騎士団が手綱を引き、静かに停止した。

「これより馬を降り、徒歩で向かう。ギルとニーキュはここで待機。サンは引き続き案内を。敵は魔力を持つ子供三十一名と大人三名。目的は、全員を出来るだけ殺さずに保護をすること。魔力を持つ者との戦いは通常であれば困難である。今回は私が先頭立ち、奇襲を仕掛ける。目標から漏れた者はお前たちに任せる。子供でも決して侮るな」
「はっ!!」

 リアム国王がマントを翻し森の奥へと前進して行くとサンも静かに続いた。
 ニーキュはそれを不安そうに見つめる。

「大丈夫よ。陛下がいらっしゃれば直ぐに終わるから」

 直ぐ側に立っていたアリスがニーキュの頭をわしゃわしゃと撫でた。ニーキュが何事かと見上げると、目が合ったアリスは笑顔を向けている。ポカンとなったニーキュの様子を見て、ギルは笑いながら髪を整えてあげた。

「うん、大丈夫。皆無事に戻ってくるから。だけど気をつけて、アリス」
「任せておいて! 行ってきます!」

 隊列の最後に並んだアリスは、親指を立ててギルとニーキュに挨拶して立ち去っていった。静かになった森の中。ギルとニーキュは小さな不安を抱えて、消えていった暗闇に目を向けていた。



 ◇

 森の奥まったところに大きめの川が流れていた。川の両脇は石がごろごろ転がっており、その場所だけは木々に覆われていない。空が大きく見えるため、信号が打ち上がるのを確認することが出来る。そのため、集合場所にここを選んだのだった。

「やはり二人は捕まったんだろうな」
「まぁ、小さい子供がいる中でこれだけ残っていれば上々だろう」
「そうだな。しかし、次の連絡が遅いな。そろそろ到着してもいい頃だと思うんだが……」

 三人の男たちは大きな石を椅子代わりにして座り、空を見上げる。
 ここにいるのは全員デール王国の者で、デール王国がどうなったのかも知らなかった。それは、デール王国からの伝達が全く途絶えていたからだ。本来であればデール王国から大勢の軍勢が到着する頃であったが、それも来る気配がない。

「おい、何で連絡がないんだ? 十分時間も稼いだ。今なら一気に落とせるというのに」

 男が苛立ちながら立ち上がった。

「わからない。だけど、俺たちがやれるのはとりあえずここまでだ。次の指示を待つしかない」
「俺、少し様子を見に行ってくる」
「ああ、気を付けて行けよ」

 間もなく夜が明けることもあって、子供たちもかなり疲弊している。それぞれがまばらに散らばり、立っている者もいれば座り込んで眠っている者もいた。それを横目に男は森の中に入っていく。

 森の中はぼんやりとした霧が出てきていた。ランタンの灯りと方位磁石を確認しながらゆっくりと進んでいると、突然口を塞がれ羽交い締めにされた。

「んんんっ!?」
「デール王国の者だな?」

 目の前には、ローンズ王国の紋章が施されたマントを身にまとった男が高圧的な態度で立っている。その後ろには多くの騎士がいることも確認できた。身の危険を感じた男は、目を大きく見開いたまま首を縦に何度も振る。

「デール王国は戦争を中止した。子供たちの保護とお前たちを拘束し、まずはアトラス王国へ引き渡す。大人しくしていれば我々は危害を加えない」

 中止した事実に驚きつつも、ローンズ王国の騎士団に囲まれては抵抗する気にはなれなかった。男は涙目になりながら、更に大きく何度も頷く。

 自分たちをあれだけ痛めつけてきた男が簡単にひれ伏した姿を、サンはリアム国王の後ろからじっと見つめていた。

 力あるものが権力を振るうことが出来る……。
 こいつを殺せば……。

 サンの手に力がぐっと入ると、リアム国王がサンの肩をぽんと叩いた。

「お前達を力で支配していた者と同じような道は辿るな。まずは知識を身につけろ」
「……どうして」

 サンはどうして自分がやろうとしていることが分かったのかと驚き、リアム国王を見上げる。一瞬目が合ったが、それは直ぐに逸らされた。

「……さぁ、行こう」

 答えをくれなかったリアム国王に対し、サンは顔をしかめた。



 リアム国王は魔力戦闘部隊がいる場所を騎士団に包囲させると、一人で木の陰から姿を現した。

「誰だ!? おい、お前達、起きろ! こいつを殺せ!」

 突如現れた人物に驚いた二人が立ち上がり剣を抜く。
 子供たちはハッと起きて、手を前に掲げた。

 リアム国王は武器すら手にしていない。しかし表情に焦りはなく、ゆっくりと向かってくる。



 すると地面がガタガタと揺れ始め、肌がビリビリと痺れだす。

「な、なんだ? 地震か?」

 男たちが慌てて周りを見ると、子供たちは青ざめて震え上がっている。
 木の陰から見ていたサンも同じく、全身が震え上がった。

「こんなに……」

 瞳を大きく見開き、リアム国王を恐ろしいものでも見るかのように見つめた。
 魔力を持たない者でも肌に感じるほどの強大な魔力。
 ただそれを知らしめただけであったが、子供たちは圧倒的な力の差に戦意喪失したのだった。

「我が名はリアム・ベルナード。ローンズ王国の王である。今すぐ投降せよ」
「リ……リアム……国王……!!」

 二人の男はリアム国王だと分かった瞬間に恐れ慄(おのの)き、顔を見合わせると両手を上げた。
 リアム国王は戦闘をすることもなく、一瞬でその場を収めたのだった。



 ◇

 アトラス王都へ帰還中、アトラス王国の兵が一人馬を走らせ近づいてきた。

「リアム陛下! 急ぎ伝達が!」

 余りにも慌てた様子の兵士に、リアム国王は眉間にしわを寄せて馬を止めた。

「どうした」
「馬上から失礼します! セイン殿下が意識不明の危険な状態にあります! 急ぎギル様を!」
「セインが!? 一体どうしたというのだ!! ギル、我々だけ先へ行く!! 来い!!」
「はっ!!」

 いつも冷静であるリアム国王が顔色を変え、状況も聞かぬままギルと共に馬を走らせた。

 

 

 

次の話に進む

前の話に戻る

 

一話から読む

 

 


人物紹介

 

 


=============================================

<小説家になろう>
【完結済み】恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

【連載中】恋するプリンセス ~アラン恋愛編~
【完結済み】小説「恋するプリンセス ~エリー王女のクリスマス~」

【完結済み】小説「恋するプリンセス ~番外編とかいろいろ~」

【二次創作】恋するプリンセス ~ジェルドの任務報告書~

 

<ホームページ>

恋するプリンセス公式サイト

お絵かきまとめサイト

=============================================

 

 

 


↑よろしければポチっとお願いします!

 

ブログランキング・にほんブログ村へ
↑よろしければポチっとお願いします!