令和6年5月11日(土)18:00〜、品川ステラボールにて。


作/横内謙介
演出/茅野イサム
上演台本・作詞/浅井さやか
音楽/YOSHIZUMI
振付/桜木涼介
美術/松生絋子
殺陣/清水大輔(和太刀)
照明/林 順之
音響/青木タクヘイ(ステージオフィス)
衣裳/小原敏博
ヘアメイク/糸川智文(STRINGS)
演出助手/長谷川 景
技術監督/寅川英司
舞台監督/佐光望
映像/ワタナベカズキ
宣伝美術/藤尾勘太郎
宣伝写真/小松陽祐
WEB/かりぃーぷぁくぷぁく(ブラン・ニュー・トーン)
制作/高橋戦車、MIMOZA
プロデューサー/中山晴喜
主催/アミューズキャピタルインベストメント、悪童会議


配役/
十五:立花裕大
ツトム:糸川耀士郎
虎清:長田光平
サヨ:川原琴響
千代姫:MIO

ゴロウ:松本亮
玉野尾の眷属:鈴木亜里紗
玉野尾の眷属:詩織
玉野尾の眷属:福田真由
玉野尾の眷属:アイザワアイ

白百:唐橋充
乳母:野口かおる
黒百合:湖せしる


玉野尾:岡 幸二郎


ものがたり/
「この場所にまつわる秘密を知っているのか」
孤独な若者ツトム(糸川耀士郎)には秘密がある。彼は、放火魔。
ある夜、彼は小さな幼稚園の廃墟を燃やす。

「あの星が巡ってきた夜にここに火を放つ者があれば…」
それは、76年に一度巡り来るという彗星が、南の空に輝く夜だった。
やがて、燃え尽きて無残な姿をさらす焼け跡から、異様な人影が現れる。

「あの物語が再び息を吹きかえすということを!」
それは、崩れかかった鎧を纏った、苔むすような古武士(立花裕大)だった。

1986年に劇団「善人会議」で初演され、
以来、様々なカンパニーで繰り返し上演され続けている、横内謙介・不朽の名作。
ショパンの名曲「Nocturne」と共に蘇る、七百年の時を超えた壮大なロマン。
『夜曲』に繰り返し出演し2003年には演出も担当した、
この名作を誰よりもよく知る茅野イサムが、
新たにミュージカルとしてお届けします。
(公式サイトより)




この戯曲が上演されるのを初めて観たのは2019年、劇団アカズノマで七味まゆ味さんが演出された公演だった。


面白かった。


放火魔ツトムの放火から700年前の因縁が紡ぐ愛憎の物語が動き出し、劇的な展開と多彩な登場人物が観るものを魅了した。


次にこの戯曲と出会ったのは、コロナ禍で予定の公演を朗読劇に切り替えた扉座の『10knocks~その扉を叩き続けろ~』で、扉座の過去の名作10本を連夜朗読劇として上演した中のひとつ『夜曲-放火魔ツトムの優しい夜-』だった。


主人公ツトムを六角精児さん、不思議な少女サヨを中原三千代さん、そして黒百合を花組芝居の加納幸和さんが演じるというオリジナル版キャストである。これをいま上演するのは、朗読劇だからこそ可能であったかもしれない。


(↓参考:初演データ)


もちろんそれ以外にも多くの場所、さまざまな場所で上演されてきた名作である。


今回の悪童会議版では、ミュージカル『夜曲〜ノクターン〜』として、華やかなキャストを揃えての上演となっていた。


演出は、劇団扉座に長年在籍され、2.5次元系ミュージカルなどの華やかで大規模な舞台を数多く演出されている茅野イサムさん。


初演で六角精児さんが演じたツトム、稲垣吾郎さんや高橋一生さん、アカズノマ版では石塚朱莉さんなど、多くの方に演じられてきたこのキャラクターを糸川耀士郎さん、過去からよみがえった武士 十五を立花裕大さん、十五の主君である虎清を長田光平さん、とミュージカル『刀剣乱舞』出演者を中心に、各種ミュージカルで御活躍のキャストを揃えている。


正直に言って、(セリフと物語を堪能したい作品なのにミュージカルにする必要ある?)とやや疑念を持っていたが、始まってみるとそういう思いは消えていた。強い感情の発露を歌で表現することの効果。


中でも、岡幸二郎さん演じる玉野尾とその眷属たちが本当にミュージカル映えして、登場するたびに歌やダンスで世界観を深めていた。


長い年月を越えてまた箒星が現れる夜、廃墟となった幼稚園が燃える。そのとき、過去の物語が動き出す。


武士や若君、乳母、姫君などが、遠くに団地の見える三十数年前の日本によみがえる。


怒涛の展開に釘付けとなる前半から、登場人物たちの胸の奥に秘められていたさまざまな思いが明らかになる後半へと怒涛の物語が展開した。


戯曲の持つチカラと魅力的なキャスト陣により、物語にどっぷり浸る約2時間半となった。


終演後、周囲の方々の会話で「つらい……いろんな感情が……」とか、「(悪童会議の旗揚げ公演であった)『いとしの儚さ』も観たいな」とか、作品を堪能したことのわかるフレーズが漏れ聞こえて、ちょっとうれしかった。


悪童会議の次回作は永井愛さんの『見よ、飛行機の高く飛べるを』とのこと。


今作とは打って変わって、明治時代の女学生たちが変わりゆく時代の中で女性としてあるいは人間として生きることの意味を考える、青春群像劇だ。


今作とはまた印象の異なる作品である。そういう振り幅が面白い、と思った。


カーテンコールではキャストのお一人が日替わりで挨拶しているらしく、この日は野口かおるさんが選ばれていた。


この御挨拶の中でこんなことをおっしゃっていた。

この作品の初演はこの前ハレー彗星が接近していた38年前。今はハレー彗星がもっとも遠いところにある。そしてもしかすると38年後にハレー彗星がまた地球を訪れる頃、この会場にいる誰かがこの作品を上演しているかもしれない、と。


月日が過ぎ人の世が移り変わっても、物語は語り継がれ舞台は創られ続ける。今回ミュージカルとして上演されたこの戯曲もそうやって語り継がれる物語のひとつなのかもしれない。