令和6年5月4日(土)10:30〜、5日(日)10:30〜、わらび劇場にて。
原作/手塚治虫
脚本/高橋知伽江
演出/栗城 宏
作曲/八幡 茂
振付/新海絵理子
美術/土屋茂昭
衣裳/武田園子
照明/三重野美由紀
音響/福地達朗
小道具/平野 忍
ヘアメイク/馮 啓孝
舞台監督/仁しづか
影絵協力/劇団かかし座
企画協力/手塚プロダクション
企画制作/わらび座
キャスト/
レオ(白いライオン):三重野葵
レオの子ども時代:久保田美宥
ラーガ(レオの母) 他:丸山有子
ライヤ(レオの妻)他:佐藤千明
マンディ(マンドリル)他:瀧田和彦
ぺッパー(ジャッカル)他:赤石美友
セサミ(ペッパーの妹)他:神谷あすみ
ルネ(レオの子)他:冨樫美羽
ケン一(獣医の卵):小山雄大
ヒゲオヤジ(ケン一のおじ、獣医・探検家):平野進一
ハム・エッグ(狩猟家):森下彰夫
ピ-チ(フラミンゴ)他:松本莉奈(研究生)
ミルキ-(シマウマ)他:杉目あかり(研究生)
あらすじ/
アフリカでとらえられた白いライオンの子レオは、輸送中の船から嵐の海へ投げ出される。幸い、獣医で探検家のヒゲオヤジとその甥ケン一に救われたが、レオは「仲間を守るためにジャングルに帰れ」という母の言葉を忘れなかった。
その頃、ムーン・ライト・ストーンを探すアフリカ探検の依頼がヒゲオヤジに入る。それは地球のエネルギー危機を救う幻の石。ヒゲオヤジはこの旅にレオを連れてゆき、アフリカに帰すと決断する。
ところが、アフリカ到着直後、この石で大儲けをたくらむ狩猟家ハム・エッグに襲われ、探検は失敗する。ケン一は別れの悲しみをこらえ、レオをジャングルに帰す。
そして3年後、大人になったレオは、ふたたびアフリカに来たケン一たちと再会し、今度こそムーン・ライト・ストーンを見つけるため、前人未到の山に挑むことになる。険しい岩場、氷河、雪崩、オオカミが彼らの行く手をはばむ。そして彼らをひそかに追うハム・エッグの悪だくみで……。
(公式サイトより)
ゴールデンウイークに劇団わらび座の本拠地であるあきた芸術村に行き、2024年度の新作『ジャングル大帝レオ』を観てきた。
『ジャングル大帝レオ』の原作者は、漫画の神様と呼ばれる手塚治虫先生だ。手塚先生のわらび座のご縁は深く、作品を舞台化するのも『火の鳥』『アトム』『ブッダ』に続いて4作目になるはずだ。
4月21日(日)に初日を迎えたこの作品は、11月24日(日)までのロングランなので、まだあまりネタバレしないよう気をつけつつ、キャラクターやキャストの紹介を中心に観てきた感想を書いていこうと思う。
冒頭、群舞から影絵による動物たちの表現に移っていく様子に見惚れる。切り抜き等を使うのではなく手や身体で表現される動物たちのシルエットが生き生きと動き出す。
物語は、アフリカからイギリスへと向かう船の底から始まる。
ジャングルの王者だった父を殺され、母とともに捕えられて故郷アフリカからイギリスへ送られようとしている幼い白ライオンのレオ。
母ライオン ラーガ役の丸山有子さん。
深みのある歌声と慈しみに満ちた演技で、幼いレオの行く末を指し示す。
子ども時代のレオを演じる久保田美宥さん。
仕草も表情もとにかく愛らしく、またそれ以上に波乱の運命にしっかりと立ち向かう凛々しさに心惹かれる。
レオは母に背を押されて嵐に乗じて檻を抜け出し、冒険家で獣医師でもあるヒゲオヤジと、その甥ケン一に助けられる。
ヒゲオヤジの甥で、獣医師の卵であるケン一を演じる小山雄大さん。
自らも子どもの頃に両親を亡くしたケン一が幼いレオに向ける言葉や表情には慈しみがにじむ。ことに第一幕終盤のレオとの場面では、繊細な演技に胸を打たれた。
同じ家に暮らす九官鳥のショコラも印象的なキャラクターだ。演じてらっしゃるのは冨樫美羽さん。レオに言葉を教える場面が楽しくて印象的だ。
ここから物語を大きく動かすのは、大きなエネルギーを生み出す石 ムーン・ライト・ストーンの存在だ。人間の未来を大きく変える石。エネルギーを巡る争いにも終止符を打つことになるかもしれない。
それを探す人々のひとりであるハム・エッグを演じるのは、森下彰夫さん。
いわゆる悪役……なのだけれど、キレッキレのダンスとコミカルな役作りでなんとも憎めない。
ハム・エッグ同様ムーン・ライト・ストーンを探しにアフリカへ向かおうとするヒゲオヤジは、その際にレオをジャングルに帰そうと考える。そして……。
第二幕は、ジャングルで動物たちがにぎやかに歌い踊る場面から始まる。
そこには、ケン一との別れから3年経ってすっかりジャングルの王者らしくなったレオの姿があった。
大人のレオを演じる三重野葵さん
成長したレオの強さ、そしてリーダーとして仲間を守ろうとする意志と風格を感じさせる。一方で、ヒゲオヤジやケン一との再会に胸を弾ませる様子は、子どもの頃の無邪気さを彷彿とさせる。
身体能力の高さを生かした動物らしい身のこなしも見事だった。
レオの妻ライヤを演じる佐藤千明さん。
チャーミングな笑顔だけでなく、さまざまな表情と豊かな歌声が魅力的だ。前半のサーカスの場面でもインパクトのあるパフォーマンスが印象に残る。
レオの息子ルネを演じる冨樫美羽さん。
前半で演じたショコラとはまた異なるキャラクターで、その可愛らしさと健気さに心惹かれる。
レオとヒゲオヤジやケン一との再会、ジャングルの仲間たちの危機、そして不思議な山ムーンライトマウンテンへの旅。
そういう後半を彩る登場人物、いや登場動物たち。
マンドリルのマンディを演じる瀧田和彦さん。長老として仲間たちを取りまとめる貫禄と懐の深さを感じさせる。
ジャッカル姉妹の姉、ペッパーを演じる赤石美友さん。
ペッパーの妹セサミを演じる神谷あすみさん。
このジャッカル姉妹は、これまでに人間にひどい目に合わされたことがあるのだろうか。人間への警戒心が強く、人間とともに暮らしてきたレオに対しても不信感を見せる。
お2人のしなやかな動きと迫力が、ジャッカルの強さを感じさせる。
ちなみに、セサミ役には瀬川舞巴さんがキャスティングされているが、怪我をされたため期間限定で神谷さんが代役をなさってるとのこと。瀬川さんの怪我は心配だけれど、久しぶりに神谷さんのミュージカル御出演を拝見できたのは正直言ってうれしかった。(瀬川さんの順調な回復をお祈りいたします)
フラミンゴのピ-チを演じる松本莉奈さんは、研究生とのこと。
写真からもわかる抜群のスタイルと美しいダンスが印象的な松本さん。これからのご活躍が楽しみだ。
シマウマ兄弟のミルキーを演じる杉目あかりさんも研究生だ。
森下彰夫さん演じる兄シマウマとともにはつらつと踊る様子は見ていて楽しくなる。
ここで紹介した役だけでなく、皆さんいくつもの役を演じ分けながらこの壮大な物語を創り上げている。
カーテンコールでは写真撮影OKとのことで、撮らせていただいた御挨拶やパフォーマンスの写真を何枚か。
わらび劇場建設50周年記念作品として、手塚先生の名作をもとに描くスケールの大きい物語は、演出もキャストも持てる引き出しを最大限に出し切って描く見どころの多いミュージカルとなった。
華やかな場面や楽しい場面、切実な場面などを重ねて、原作の持つテーマを丁寧に立体化しており、考えさせられる問題も多かった。
「地球は、人間だけのものではない」
その言葉が観終わったあとも胸の中に残った。
ロビーに飾られている美術プランの模型は、サーカスの場面だ。
作品のPVへのリンクを貼っておく。
これまで多くの困難に直面してきた劇団が放つ渾身の話題作であり、これから11月までの間にぜひ多くの方にご覧いただきたい作品となっている。
自分もまた、この物語に会いに秋田へ出かけたいと思う。