令和2年5月19日(火)〜、ツイキャスにて配信。

原案/太宰治(『ろまん燈籠』)
作・演出/屋代秀樹

舞台監督/黒澤多生(青年団)

舞台美術/袴田長武(ハカマ団)

宣伝美術/郡司龍彦

撮影場所/アトリエ クロイハコ


配信日時及び出演/
19日(火)20:00「末子(甲)カズヲ」沈ゆうこ
20日(水)15:00「作家、平田」屋代秀樹
20日(水)20:00「次女ルミ」永田佑衣
21日(木)20:00「長男ダイゴ」木内コギト
22日(金)20:00「次男タケシ」横手慎太郎
23日(土)14:00「大学生サト」宝保里実
23日(土)19:00「末子(乙)カズヲ」安東信助
24日(日)14:00「長女ハツエ」田中渚

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―この家庭の空気から暗示を得て、私は、よほど前に一つの短編小説を創ってみた事がある。

 私の愛着は、その作品に対してよりも、その作中の家族に対してのほうが強いのである。

 私は、あの家庭全体を好きであった。―

 

過ぎていく時間と、変わらない場と、すでにない家族の、名状しがたき短いおはなし

 

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(公式サイトより)




こまばアゴラ劇場で上演予定だった日本のラジオ『カナリア』(再演)が新型感染症の流行により中止となり、『カナリア』が上演されるはずだった日時に約10分間の一人芝居が一本ずつオンライン配信された。

それは、ある家族の物語。

祖父母、父母、長男、長女、次女、次男、末子、同居している女子大生。

それなりに名の通った画家である父は、病で倒れたのち精神を病み、数年後にまた倒れて亡くなっている。

元々は写実的な風景画を得意としていたが、晩年は奇妙におぞましい抽象画を描くようになったと言われている。

次男は父の部屋で首を縊って死んだ。

そんな家族の何年かに渡るいくつかの場面を切り取って描いていく。

配信だけれど朗読等ではない。カメラ越しとはいえ劇場で、それぞれ説得力のある設定(挨拶の練習やネット配信、眠ってしまった相手への語りかけ、電話での会話など)による一人芝居。

少し奇妙で、どこか懐かしい、それぞれに個性的な登場人物たちが、それでも家族ならではの共通の匂いを感じさせる。

家族の物語の背景に、この団体が何度か扱っているクトゥルフ神話の要素も加わって、時空(?)の歪みを含んだ世界観が魅力的だ。

上演順と劇中の時間経過は別々で、小道具の梅酒の瓶の様子で劇中の時期が察せられたりするのも面白かった。

一本だけ観るとか、5月末日までアーカイブも公開されていた(クラウドファンドのリターンで無期限のアーカイブもあり)ため任意の順番で観ることも可能だけれど、観終わってから思うのはやはり上演順に最初の「末子(甲)カズヲ」から観るのが面白い気がする。

配信は無料で、同時期にやっていたクラウドファンドのリターンとして先に書いた無期限アーカイブの他、戯曲やパンフレットなどもあった。配信より前にパンフレットや戯曲をリターンとする手頃な支援を申し込んでいたのだけれど、やや大きめの支援には劇中キャストによるオリジナルボイスドラマというのもあって、観終わった後でそうとう迷った。

次男とカズヲ(乙)の会話を聞いてみたかったのだ。

結局決断できずに終わって、タケシとカズヲの会話はまぼろしとなった。


この団体らしいこだわりと精緻な物語の面白さを充分に堪能させていただいた。

一度も劇場に行けなかった5月に、少しだけ劇場の香りを感じた気がした。