令和元年10月26日(月)14:00〜、下北沢ザ・スズナリにて。

作・演出/詩森ろば
舞台美術/杉山至+鴉屋
照明/榊美香(有限会社アイズ) 
音楽・音響/青木タクヘイ(STAGE OFFICE) 
映像/浦島啓(コローレ)
舞台監督/田中翼
演出助手/江口翔平
宣伝写真・記録写真/保坂萌
宣伝美術/詩森ろば
制作/イビケイコ(TiA Production)
主催/一般社団法人風琴工房

出演者/
田島亮(serial number)
森下亮(クロムモリブデン)
碓井将大
根津茂尚(あひるなんちゃら)
杉木隆幸(ECHOES)
酒巻誉洋
佐野功
岡野康弘(Mrs.fictions)
藤尾勘太郎

Story/
コンドーム製造会社「ササモリゴム工業」は、女性創業者によって創設された同族会社。低迷する経営状態のなか、より薄いコンドームを作るべく開発を始めるが、さまざまな困難が襲い掛かる。社員たちはその体験を通じ、妻との関係、娘や息子との関係、恋人との関係、そしてなにより大切なエンド・ユーザーとの信頼関係を見直していく。
(公式サイトより)


この日はなんだか朝からバタバタだった。

インフルエンザの予防接種の予定をねじ込んだこともあり、あまり余裕のない時間設定だったのだけれど、いつも停めている駅前の駐車場が満車で他へ回った結果、予定の電車に乗り遅れた。

経路を変更し、ひと区間だけ新幹線を使うことにしたら、今度は新幹線が7分遅れのアナウンス。予定の乗り換えに間に合わない。それじゃ乗換案内によれば下北沢駅に着くのが13:57。改札口を出るまでに14時になっちゃうよ。

……などと冷や汗かきつつ、なんだかんだで無事に開演10分前くらいに会場に入ることができた。危機一髪。

あの冒頭を見逃さないでホントよかった、とあとから思う。

どんな冒頭かって、それは、いい大人の男性9人で全力のアイドル風の歌とダンス。可愛い。

佐野さんのクールな微笑と岡野さんのチャーミングな笑顔を目で追ってしまう。

そして始まったのは、ある製品開発の現場だった。

コンドーム0.01。

薄さ0.01mmのコンドームを開発する人々の物語だ。その中で、技術的な困難よりも「それは、誰のための薄さなのか」という命題が物語の軸となる。

約2年前、serial numbersとなる前の風琴工房で上演された『アンネの日』は、女性ばかりのキャストで生理用品の開発について、一人ひとりの初潮の思い出やさまざまなこだわりなどを通して描いた物語だった。

その『アンネの日』と対をなす今作も、男性ばかりのキャストがそれぞれの初体験を語るモノローグを折り込みながら、ものづくりの現場を描いていく。

お仕事モノの作品の専門的で一般に馴染みの薄い部分を面白く見せる工夫もserial numberが得意とするところだ。今回はゴム製品の素材や開発の歴史などについて、コンドームエンジェル(!?)が登場して説明する。

詩森さんのお書きになるお仕事モノの登場人物は、いつも現実の我々より少しずつ強く、美しい。

挫折や迷いを抱えながらも真摯さと誠実さを手放さない彼らの強さに、いつも憧れてしまうのだ。

誰のための薄さなのか。作るだけでなく、売るための試行錯誤は、企業の論理ではなく人間の生き方を問うものとなっていく。

シリアルナンバー的オールスターキャストとも言いたくなる出演者がそういう職業人たちを魅力的に演じ、デリケートな題材を見事なエンターテインメント性を備えた群像劇に仕上げていた。

終演後、物語のモデルとなった会社の製品を希望者に配っていた。やや照れ臭さを感じだけれど、せっかくなので受け取って会場を出た。