平成29年10月20日(金)18:30〜、大田区民文化センターアプリコにて。

 
原作/手塚治虫
脚本/齋藤雅文
演出/栗山民也

作曲/甲斐正人
振付/田井中智子
美術/松井るみ
照明/服部基
衣裳/前田文子
音響/小寺仁

ヘアメイク/鎌田直樹
小道具/岩辺健二・平野忍
舞台監督/浪形未緒
歌唱指導/山口正義
ムリダンガム指導/森山繁
宣伝写真/三好宣弘
企画制作/わらび座

出演/
シッダールタ:戎本みろ
タッタ:三重野葵
ミゲーラ:古関梓紀

コーサラ国王・ヤタラ:渡辺哲
ルリ王子:齋藤大輔
アグリ:窪寺杏

ヤショダラ・鳥:髙橋真里子
語り部:川井康弘(劇団俳優座)

デーバ・アンサンブル:内田勝之(専属)
バラモン・アンサンブル:小山雄大
アンサンブル:平圭太(芹川寺務所)

アンサンブル:山田愛子
アンサンブル:白井晴菜
アンサンブル:大塚舞音

 
ストーリー/
遥か古代のインド。
シャカ族の国に、王子シッダールタは生まれた。

王子は「世の中はなぜこんなにも不幸せと争いに満ちているのだろう?」と悩んでいた。

「なぜ生きるってこんなにも苦しくて怖いのだろう?」
王子は答を見つけるために国を捨てた。
修行の旅に出たのだ。

王子の旅は、大発見の連続だった。
世の中は怖いけれど、生きるエネルギーにあふれていた。
感動する出逢い!戦いと別れ!

女盗賊のミゲーラ。
国を滅ぼされ復讐に生きるタッタ。
母が奴隷だったことに苦しむルリ王子。
森の苦行者たち……。

そして答を探す王子の前に、
故郷シャカ族の滅亡が迫っていた……。
(わらび座公式ホームページより)
 
{6665BB70-D3E0-4517-B170-41438A22CAB9}
 
……みんな、なんて孤独なんだろう。

観終わって最初に思った。

タッタにしろ、ミゲーラにしろ、ルリ王子にしろ、ヤタラにしろ、いやシッダールタでさえ、ただひとり世界と向き合うようにたたずみ、
誰かにそばにいて欲しいと願っているように見える。
 
シッダールタが出家する契機となった4つの門の挿話では、彼が「老い」「病」「死」に出会い、人間の生と死について思い悩むのだけれど、それらの苦しみ以上に「孤独」についての物語だったように感じられた。
 
タッタの「アンタだけは、オレを嫌わないでくれ!」という言葉が孤独な魂の慟哭のように響く。シッダールタのおだやかな声だけが自分と世界をつないでくれるものだというように。

孤独な人々の物語だと感じる一方で、生命力にあふれた舞台だ、とも思った。

特に、民衆の登場するいくつかの場面。

人々は貧しく、厳しい自然や身分制度に苦しみ、今夜の寝床や食事にも事欠きながら、陽気に声を上げる。
 
若々しいキャストがそのエネルギーを表現していく。鮮やかな色彩とパワフルな歌声や流れるようなダンスが、世界を満たす人々の命を感じさせる。
 
迷い、悩み、苦しみなから、それでも生きていく。そういう人々の葛藤が舞台からあふれ出し、汚れて泣き叫び、もがき苦しむ彼らの姿さえ、涙が出るくらい美しかった。
 
孤独な巨人がシッダールタに問いかける。人間が生まれ、そして苦しまなくてはならない訳を。
 
葛藤の後の静けさ、清らかな水の流れる音と光。ゆっくりと広げられたシッダールタの両の腕が人々の孤独を包み込むように感じられた。
 
{A41FE169-136B-4866-B1D9-86494F1343FC}
 
俳優座から客演されている川井康弘さんは、語り部として観客と古代インドをつなぐ重要な役割を担う。
 
また黒衣の上に白い布をかけるとシャカ族の王家に仕える侍従となったり、その他アンサンブルとしても様々な場面に登場されている。
 
{0BD1009E-08EF-497E-AF2C-2EC5B215A790}
 
盗賊や修行僧、その他多くの役を演じる平圭太さん。
 
今年の初めには、秋田市内のわらび座常設公演『新・リキノスケ、走る!』で若き日の石川理紀之助として全力で走り抜ける姿を拝見したが、この『ブッダ』でもまたパワフルに走り続けている。
 
{F7BA3EC0-F768-4958-81ED-8EA4DC7168D9}
 
ルリ王子役の齋藤大輔さん。
 
端正な面差しに浮かぶ表情は、ヒリヒリするような張りつめた内面を伝えている。奴隷の血を引く王子の「運命が憎い」という言葉には怒りよりも深い哀しみが感じられた。
 
それでもヤタラとの森で出会う場面では、孤独な巨人と孤独な王子の心に通い合うものを感じさせて、温かい雰囲気が流れていた。
 
{797BA6C9-2063-4CEC-9947-79174DD993AF}
 
シッダールタの妻 ヤショダラ姫を演じる髙橋真里子さん。
 
『ブッダ』には初演から続けてのご出演だが、ヤショダラ姫を演じるのは2017年度版から。
 
ほっそりとした美しさの中に、芯の強さを感じさせる。劇中では慈愛を象徴する存在でもあるのだろう、大切な人を慈しむ想いを歌う姿が印象的だった。
 

言葉では語られないものの多い舞台である。ただ、流れる水のような人々の運命の変転と圧倒されるような感情の嵐、そしてその後に訪れる静けさに、客席は確かなものを受け取って、劇場を後にするのだ。

 
ところで。
 
先日、この『ブッダ』チームによる動画配信番組『ジェイホー!』が始まった。
 

 

第1回は、タッタ役の三重野葵さんとミゲーラ役の古関梓紀さんがご出演だ。

 

劇中では夫婦であるお二人が、それぞれ共演した感想などを語っている。舞台での激しさとはまた違う語り口が興味深い。後半の「印」の字の早書き対決(!?)も楽しかった。

 

毎月第2・第4月曜日に配信されるとのことで、11月27日配信予定の第2回は、戎本みろさん、白井晴菜さん、大塚舞音さんがご出演とか。こちらも楽しみだ。