平成27年10月4日(日)10:15~、わらび劇場にて。

作・作詞・演出/鈴木聡

音楽/八幡茂
振付/ラッ キィ池田・彩木エリ

美術/石原敬
照明/塚本悟
衣裳/樋口藍
小道具/平野忍
ヘアメイク/馮啓孝

演出助手/栗城宏
音楽助手/渡辺信子
振付助手/安達真理

舞台監督/根岸万依

出演/
成田為三:鈴木裕樹
文子(為三の妻):遠藤浩子

岡本(為三の弟子)・他:戎本みろ
おまつ・他/高田綾
倉田(為三の友人)・他:内田勝之

井上(為三の友人)・他:尾樽部和大
正子・他:小林すず

ミツ(為三の母):古関梓紀
憲生(為三の兄):渡辺真平

大里・他:長掛憲司
イネ(憲生の妻)・他:工藤純子 
車掌・他:片村仁彦
嘉江(為三の教え子)・他:菅愛美

研究生:藤井颯太朗、小林弥央、大塚舞音

ものがたり/
大正3年冬、北秋田市米内沢出身の成田為三さんは秋田駅のホームにいた。
東京さ何あるべ?
・・・期待を胸に、作曲家になる夢を叶えるべく上野の音楽学校へと向かうのだ。

生活は貧しいけれども音楽への情熱は人一倍。勉強に恋に忙しい毎日だ。
転機は、在学中に作曲した「浜辺の歌」の大ヒット。
それをきっかけに、童謡誌『赤い鳥』の作曲家となり、音楽の道を極めるべくドイツ留学。
帰国後は賢明な妻・文子と熱心な弟子・岡本を共に、故郷に錦を飾る凱旋公演。
男として、作曲家として、順風満帆な人生を歩んでいた。  

そんな為三さんの元に思わぬ仕事が舞い込んでくる。
恐慌と戦争不況で疲弊する秋田のために「秋田県民歌」の作曲を依頼したいというものだった。なんとその作詞は、師範学校時代の友人・倉田政嗣。
友人との曲作りは、故郷への想いと音楽への情熱をさらに燃え上がらせた。  

しかし、そんな為三さんの元にも戦争の足音は迫ってくるのだった―――  
「ふるさとみたいな歌を作ろう」
夢を見続けた為三の情熱が、人々の心に光をともす!
(わらび座公式サイトより)

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久しぶりですね、と言われて気がついた。

『ジュリアおたあ』のわらび劇場公演や秋田市での『政吉とフジタ』などで
秋田には来ているが、『為三さん!』を観るのは約3カ月ぶりだ。

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秋田県出身の音楽家の生涯と周囲の人々との交流を、
彼自身の歌も含む美しいメロディやユニークなダンスに乗せてテンポよく軽やかに描く舞台。

そして、その軽やかさの中に、音楽への情熱や故郷への想い、
そして戦時下での挫折などをもにじませていく見どころの多い作品だ。

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今回は、舞台実習として3名の研究生も加わって、
いっそう厚みのある舞台となっていた。

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研究生の大塚舞音さん。

研究生が加わっていた場面のひとつは、為三が発表した『浜辺の歌』を人々が歌うところ。

竹下夢二が表紙を描いた楽譜を手にして、
さまざまな服装、さまざまな職業や立場の人々が歌っている。

美しいメロディと歌詞に遠い何かを懐かしむような表情が印象に残った。

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同じく研究生の小林弥央さん。

為三が文子にプロポーズしたあとの歌の場面でも、研究生が登場する。

この写真と同じ、真っ白なシャツで、
結婚式場専属のキューピット合唱団という設定らしい。

大勢で揚々と歌い上げられる歌声は、
作曲家としても前途有望で、しかも結婚が決まったばかりの主人公の
前途を祝福するように響いていた。

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主人公の為三役の鈴木裕樹さんとその母 ミツ役の古関梓紀さん。

「頑固で不器用で、でも本当は優しくていいヤツ」と言われる為三さんの雰囲気が
鈴木さんによく似合っている、と観るたびに思う。

そして、序盤でミツが「甘やかして何が悪い!」と言い切る場面で、
この日も客席から拍手が聴こえていた。

頼もしく、愛情のこもった母の存在感に、特に多くの女性が共感していたように感じられた。

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物語の語り手でもある、為三の妻 文子を演じる遠藤浩子さん。

まだ妻となる前、為三が失恋する場面で、
(語り手としての言葉なのだけれど)ちょっとうれしそうに語る様子がチャーミングだった。

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為三の兄憲生役の渡辺真平さんと、為三の親友倉田役の内田勝之さん。

弟が東京に行くときに、「カエルになって帰って来い」という憲生。
音楽家になることを反対しながらも、本当は心配し、期待している様子が感じられた。

冒頭の旅立ちから、離れてはいても親友としてつながっている倉田が、
この物語の一方の軸になっている気がした。

彼の妻が手紙を読む場面では、いつも涙がこみ上げてくる。

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為三が務めていた学校の校長や、友人井上などを演じる尾樽部和大さん。

口うるさい校長としても、気のいい友人としても、
明るいキャラクターでコミカルな場面を盛り上げた。

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為三が上京するときに出会った少女おまつを演じる高田綾さん。

童謡メドレーでの踊りの美しさや、その他多くの場面で印象に残るが、
なんといっても少女時代のおまつと、後年秋田屋の女将として再会した場面は圧巻で、
短い場面ながら彼女の生きてきた年月や故郷への想いが感じられる気がした。

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前日、秋田市内で『政吉とフジタ』を観たばかりだったので、
2つの作品の共通点が目に付くように思われた。

どちらもほぼ同じ時代の芸術家についての物語だ。
秋田との関連についても丁寧に描かれている。

そして、特に戦争との関わりもそれぞれに異なる形で描かれていて、
終戦70年目を迎えた今年だからこそ、さまざまなことを考えさせられる気がした。

4月から上演されているこの作品も、残すところ50回を切ったらしい。
その間にまだ何度か拝見できるといいなあ、と思う。