平成27年10月2日(金)18:30~、栃木県総合文化センターサブホールにて。

作・演出/水谷龍二
出演/風間杜夫

大好評につき再演決定!今年もやります!ひとり芝居! 

大角卯三郎 大正八年生まれの95歳。 
下町の銭湯「大正湯」で働いている現役である。 

卯三郎はこの町の名物爺さんで、ご近所の住人がこの男の世相切りを聞くために 
閉店間際に集まってくる。「大正湯」は毎日拍手喝采爆笑の渦に巻き込まれていた。 

ある日、東京大学の女子学生が訪ねてきた。95年の人生を取材にきたのである。 
卯三郎は波乱に満ちた生涯を堰を切ったように語り始めた。 
大正、昭和、平成……話は硬軟自在あちこちに飛ぶが、次第にその歩んできた 
過去が明らかになっていく……。 
そして卯三郎は自問自答する“本当の正義とは何なのか”と。 

スーパー老人、大角卯三郎の生きた激動の時代を、笑いと涙と正義で描く!
(公式サイトより)

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いきなり、歌が始まる。
ハンドマイクを握った長い白髪をなびかせた老人が、舞台中央でシャウトする。

再演ということだけれど、脚本には新たに手を加えているのだろうか、
老人が深夜の銭湯で語る時事ネタは、耳に新しい話題となっている。

一人芝居だから、とにかく卯三郎がひたすら話す。
その相手は、近所の老人や電話越しに金の無心をする息子や同じ銭湯で働く人々など多彩だ。
そして中心となるのは、老人の話を聴きに来るひとりの女子大生だった。

彼女が聞くのは主として戦争中のこと。何かの研究課題なのかもしれない。

あそこは地獄だった、と語る老人。
同じ隊にいた落語好きだった男や若い相撲取りも、戦地で亡くなったのだろう。

思い出話を語るうちに、いつのまにか卯三郎は太平洋戦争当時の若かりし姿になる。
結婚の約束をした娘とのやりとり。
彼女の家は銭湯「大正湯」で、彼は廃材を集めてきて湯を沸かすのを手伝ったりもする。

日清戦争に続いて太平洋戦争のさなかに届く2度目の赤紙。

地獄のような戦地を生き延びて、終戦後に苦労して戻ってきてみれば
彼のいた部隊が全滅と聞かされて、彼女は他の人のところへ嫁いだあとだった。

戦後、必死で働いて事業に成功し、大正湯がつぶれかけたときにはそれを買い取って助け、
持っていた事業を息子と娘に譲って、銭湯で働き出すのだった。

若いときも、成功した実業家らしい70代のころのダンディな姿も、
そして、派手な法被を着て、風呂屋で働く現在も、彼は彼らしく見えた。

女学生が彼に尋ねる。
あの戦争は間違っていたと思うか。

命がけで戦争に行った自分にそれを聞くのは酷だ、と言いながらも、彼は答える。
正しい戦争なんてない、と。

殺伐とした時代にも、人の憩いの場となる銭湯を守ること。
それが彼にとってのささやかな正義だったのだろう。

そういう、ひとりの男の年代記。

空っぽになったステージに流れる『ヒーロー』のメロディを聞きながら、
どこか切ないものを抱えて、劇場をあとにした。

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