平成27年6月14日(土)16:00~、20日(土)13:00~、東京芸術劇場シアターウエストにて。

作/河竹黙阿弥
監修・補綴/木ノ下裕一
演出・美術/杉原邦生

出演/
和尚吉三:大村わたる
お坊吉三:大橋一輝
お嬢吉三:堀越 涼

木屋文蔵(文里):村上誠基
丁子屋花魁 一重:熊川ふみ
文蔵女房 おしづ:藤井咲有里

八百屋久兵衛:塚越健一
釜屋武兵衛:田中佑弥
文蔵倅 鉄之助:森田真和
丁子屋新造 花琴:緑川史絵
丁子屋花魁 吉野:大寺亜矢子
おしづ弟 与吉:森 一生

木屋手代 十三郎:田中祐気
伝吉娘 おとせ:滝沢めぐみ

土左衛門伝吉:武谷公雄

あらすじ/
江戸時代。
刀鑑定家・安森源次兵衛の家は、何者かにお上の宝刀・庚申丸を盗まれて断絶となっていた。
ある時、立身出世を目論む釜屋武兵衛は、
巡り巡って木屋(刀剣商)文里のもとにあった庚申丸を金百両で手に入れる。
しかし文里の使用人・十三郎は、その取引の帰り道、夜鷹(街娼)・おとせと出会い、
受け取った百両を紛失。
思いがけず百両を手にしたおとせだったが、
十三郎を探す道すがら、女装の盗賊・お嬢吉三に百両を奪われてしまう。
様子を見ていた安森家浪人・お坊吉三は、お嬢吉三と百両を巡って争うが、
そこに元坊主・和尚吉三が現れる。
彼がその場で争いを収めたことで、三人は義兄弟の契りを結ぶ。

また、失意の十三郎は、川に身投げしようとしたところを、
和尚吉三の父・伝吉に拾われていた。
訪れた伝吉の家で、彼はおとせと再会し…。

一方、吉原の座敷では、文里がお坊吉三の妹で花魁・一重に想いを寄せていた。
人柄で評判の文里だったが、彼には妻子があった。
文里の求愛を一重が拒みつづけていたある日、文里は、ある決意を座敷で語りはじめる。
(公式サイトより)

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シェイクスピアの生年没年は知っていても、
恥ずかしながら黙阿弥がいつ頃の人なのか知らなかった。

けれど今回、ようやく認識した。
江戸の終わりから明治にかけて、活躍した方なのだそうだ。

がらんとした舞台の中央に、「TOKYO」と書かれた立て札がある。
舞台の周辺から、男が数人、いや3人現れ、いぶかしげにその立て札をのぞきこむ。

大音響で鳴り響くロックアレンジの『蛍の光』。
それはもしかすると、ひとつの時代の終わりを告げる音楽なのだろうか。

そういう物語の始まり。

さきほどの立て札よりずっと大きい『EDO』の文字が一文字ずつ。
それが、場面によっては『DOG』になったりもする。

舞台は江戸、そして巡る因果の因縁話には犬がからんでくるからだ。

シンプルなセットに、江戸の大川端や廓、古寺などの情景が浮かぶ。
何しろ、舞台上で人が生きている。

長年親しまれてきた芝居を、なじみの薄いパートも生かしつつ、
現在の若い役者で生き生きと見せた。

いい役者をそろえた、などと、私のような観客が言うのも僭越だけれど、
しみじみ役者の芸を堪能する作品となった。

長身と目一杯豊かな表情が印象的な和尚吉三は、
兄貴分らしい貫禄より、とりあえず俺に任せろ、と言って走り出す勢いを感じさせる。

甘いマスクに育ちのよさをにじませるお坊吉三。
グレたそぶりの下に、誠実さ生真面目さが透けて見える。

そして、堀越さん演じるお嬢吉三。
本拠地である花組芝居では女形として活躍されているが、この舞台では、
振袖姿で目元に紅を差してはいても、あくまで若い男性として演じている。

長年女形を演じてきた、その所作や声色も活かしつつ、
冒頭で、伝吉と十三郎が連れ立って歩く姿を見て
幼くして親と生き別れた自分の身の上を思う、寂しい少年の独白。

所作や演技ももちろんだけれど、その多彩な声音で自在に男にも女にもなりきってみせる。

土左衛門伝吉を演じた武谷さん。
長年悪党として生きてきた挙句、巡る因果に悔い改めて、
悪事から足を洗って夜鷹の元締め稼業。
そういう人生のにじみ出る姿に、ついつい目がいってしまう。

年齢高めの役でもあり、ベテランであろう、と思って調べると、まだ三十台半とのこと。
それを聞いて少しあきれるくらいの芸達者な役者さんだ。

また、子どもから遣り手婆まで幅広く演じた森田真和さんも印象に残る。

そんな中で、今回一番やられたのは、文理を演じた村上さんだった。
廓での一重の客である文理の粋な物腰と、
軽さと凄みを併せ持つ金貸しの2役がどちらも際立って、
これまで何度も拝見している役者さんながら、しみじみ感心した。

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この作品、何しろ5時間10分の長尺だ。
腹ごしらえのできる仕組みも考えられていた。

物販におにぎりがあって、2回目の幕間に受け取ることができる。
中の具も日替わりだし、パックの帯に「初日」や「千秋楽」の文字、
日によっては、セリフや役名が書かれていたりもして楽しかった。

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先月、別な劇団で『三人吉三』をベースにした芝居を観た。
そちらは、時代を明治に移し、お坊吉三がフロックコートに山高帽子なんて場面もあった。

巡る因果に翻弄され、時代の変化に取り残されて、滅びていく悪党たちの美学。
そういう切り口の作品となっていた。

どちらも共通して、江戸から明治への大きな時代の転換を意識していたように思えて、
歌舞伎を見るときに、もう少し作品そのものやその芝居の書かれた時代背景なども
知っていると面白いかもしれないなぁ、と、やや余計なことを思ったりもした。