平成26年8月19日(火)13:45~、わらび劇場にて。

原作/宮沢賢治「風の又三郎」
脚本/高橋亜子
演出/渡辺哲
作曲/飯島優
編曲/沼井雅之
振付/長掛憲司

出演/
一郎:伊藤幸世
嘉助:神谷あすみ
先生、しの笛、フルート、サックス 他:小沢剛
琴、三味線 他:黒木いづみ
三郎:小山雄大
(公式サイト他より)

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お盆も開けた平日のこの日、
夏休みの残りを使って、今月2度目の芸術村遠征に行ってまいりました。(日帰りでw)
わらび劇場版の『風の又三郎』を観るためです。

強い風の吹く小さな町を舞台に、ひとりの転校生との出会いを通して、
少年が自分自身の弱さと向き合い、成長する姿を描くこの舞台。
7月に拝見したとき以上に、ひとつひとつの場面が鮮やかで印象的に感じられました。

響というユニットの公演は、「観る」以上に「聴く」要素が強く感じられるのですが、
その「聴く」部分の要となるのがこのお二人でしょう。

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篠笛、フルート、サックス、ハモニカ、太鼓などを演奏される小沢剛さん。

どの楽器もクォリティの高い演奏で、音楽劇としてのベースをきっちりと見せてくださいます。

また、一郎たちの学校の先生役では、『走れメロス』での怖い王様とは打って変わって、
優しそうな雰囲気が素敵でした。

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琴・三味線などを担当されている黒木いづみさん。

琴というのはこんなに表現力の豊かな楽器なんだなぁ、と聴き惚れてしまいます。

少年たちの一員として見せる笑顔も印象に残りました。

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転校生 三郎役の小山雄大さん。
芝居はもとより、オカリナや太鼓の演奏も印象的です。

一郎の夢や空想の中に、マントをはおった風の神として現れるときと、
転校ばかりを繰り返す高田三郎少年と。

それぞれの表情が鮮やかで、ハッとさせられました。

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少年 嘉助を演じる神谷あすみさん。

やんちゃで、でも気のいい少年を表情豊かに演じます。
三郎のオカリナをうっとりと聴く表情がとても印象的でした。

イジメ、というほどの意識はないまま、
勢いに流されて、転校生をみんなで囃し立ててしまった翌朝、
嘉助は、彼に謝ろうと心に決めて、学校に一番乗りしようとやってきました。
(実際には一郎が先に来ていましたが)

気負いもためらいもなく、明るい笑顔で走ってくる嘉助のまっすぐな誠実さが、
本当に眩しく感じられました。

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一郎を演じる伊藤幸世さん。

密漁者と向き合ってしまった三郎に加勢するように声を上げた一郎の真剣なまなざしや、
大人たちが逃げるように立ち去ったあとの湧き上がるような達成感。

調子に乗ってしまって、みんなで三郎を囃し立てた後の自責の念。

細やかな心の動きが感じられて、引き込まれました。

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定点観測中のアンネの薔薇。
今月上旬に訪れたときは、花もつぼみも見当たらなかったのに、
わずか2週間ほどで大輪の花をいくつも咲かせていました。

まもなく開きそうなつぼみもあって、
この夏の暑さもそろそろピークを越え、秋に向かっていくのだと思わされました。

ひとりの少女の想いが薔薇の形となって人々に引き継がれ、
遠く海を越え、今もこうして季節ごとに花開くのだと、
そう思うとなんだかとても不思議な気がします。

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いつのまにかすっかり見慣れたこの角館駅。
お祭りが近いため、駅のホームもにぎやかになっていました。

わらび劇場での『風の又三郎』の公演は終わりました。
これからこの作品は、また全国へ旅立つのでしょう。

これを観て、ささやかな勇気や優しさ、そしてキラキラした何かを受け取る
一郎や嘉助に少し似た若い方々が各地で待っている。
そう思うだけで、なんだか涙が出てきそうになります。
それはとうに過ぎ去った自らの若い日に向けた憧憬なのかもしれません。

この舞台を観たあとに感じられる、涼やかな風のような想い。

それは、ただ通り過ぎる風ではない、確かな何かを残して行くのだと、そんなふうに感じられるのです。