平成25年10月9日(水)19:30~、12日(土)19:30~、新宿サンモールスタジオにて。


作・演出/中嶋康太

出演/

伯爵:岡野康弘(Mrs.fictions)


マリー=ビスキュイ・ド・ブルボン:小見美幸
佐久間ひよ子:相楽樹
よっちゃん:野口オリジナル(ポップンマッシュルームチキン野郎)
UHA:志水衿子(ろりえ)
コリス:浅利ねこ(ぬいぐるみハンター)


モロゾフ・不二:工藤さや(カムヰヤッセン)
ロイズ・ママ:関原あさこ
右足・パパ:今村圭佑(Mrs.fictions)
左足・赤城:中舘淳一郎
リスカ・湖池:佑木つぐみ(<火遊び>)
ユーハイム・江崎:三嶋義信
カバヤ・ハリ坊:渡辺伸一朗(アナログスイッチ)
カクダイ・でん六:ひら凌一(劇団ガバメンツ)


【あらすじ】
ずっと死ななかった彼のこと。

一八世紀の終わりごろ、不老不死の男として歴史にその名を残した稀代の詐欺師サンジェルマン伯爵。

もっとも彼が詐欺師だったのはほんの百年ほどの間だけで、あとの長い長い人生はただただひっそりと、
日陰を歩むように暮らしておりました。

近世、近代、現代、近未来、それからずっと気の遠くなるような未来を経て、宇宙の全部が静かに終わりを迎える最後の瞬間までの間、永遠とも思えるような時間をずっと、何一つ成し遂げられず、惰眠と後悔にまみれて生きていた彼と、彼が愛した幾人かの話。
(公式ホームページより)


〝人と人とは出会わなければならない〟という活動理念のもと、お芝居を作ったり、

15MinutesMade(6つの団体がそれぞれ15分の短編を上演するショーケース形式の公演)を

主宰したりしているMrs.fictions。


昨年の15MinutesMadeで上演された『お父さんは若年性健忘症』を観て以来、

ここの公演は見逃さないようにしている。


今回の公演については、公式ホームページに上に記載したあらすじのほかに、

作・演出の中嶋さんがお書きになったご挨拶が掲載されていて、

それがとても素敵なので、一部分だけ引用してみると。


―もちろん難解で壮大な歴史物とかではありません。特に理由も無く長生きしてしまう伯爵さまが、もう会えない人や物や場所に向かって言いそびれた沢山の「ごめんね」とか「ありがとう」を抱えて右往左往するといった、要するに私たちの、いつもの日々の暮らし向きのようなお話です。―


ね。なんか、いいでしょ?


このご挨拶のとおり、気負いも衒いもない、いや、ない訳ではないのだろうけど、それを感じさせず。

歌ったり踊ったりする訳でもないし、必要以上の熱気や長台詞もない。

でも、クスっ、とか うふ、とか笑って観ているうちに、

なんだかやたらめったら隣の人をハグしたいような気持ちになる芝居。


言葉にするなら、愛しいとか哀しいとか切ないとか、

そんな想いに近い何かが湧き上がってくる、そういう作品だった。



これまでいくつかの作品を拝見して、

少人数での会話劇をやるところだっていうイメージがあったんだけど、今度は長編。

そして、キャストもけっこうな人数。


いったいどんな話になるんだろう、と楽しみにして(あるいは不安を感じて)いたんだけど、

実際に観てみると、大きく作風を変えている訳ではなかった。


死なない男が出会った5人の男女。

それぞれとの出会いや関わりを描く5つの場面で構成されており、

ひとつひとつの場面は、やはり少人数での会話劇に近いものだったから。


中嶋康太さん。この方の描く脚本には、ある種の諦念が感じられる。


これまで拝見した(あるいは脚本を読んだ)いくつかの作品をみると、

どれも状況から言えば、八方ふさがりだったり、行き詰まりだったりで、

輝くような未来が待ってる訳じゃないし、ハッピーエンドなんて望むべくもない。

それでも、生きていくことを選ぶささやかな決意と、誰かを愛しく思う、その気持ちを描いて美しい。


同時に、言葉、台詞のひとつひとつが、

とても丁寧に書かれていることが感じられて、愛しく響いてくる。


キャストもそれぞれ魅力的だった。


主人公の伯爵を演じる岡野さん。

5つの場面それぞれで、口調も動きもまったく違っていることに驚く。


言葉を覚えたばかりの子どものような素朴でチカラ強い口調だったり。

優しさや保身を言葉で覆い尽くそうとする饒舌さだったり。

愛する人にだけ向ける女性言葉だったり。

愛することにも生きることにも飽いたぶっきらぼうな絶望感だったり。

終末のときを迎える平明で率直な言葉たちだったり。


そして、まったくの別人かと言うくらい話しぶりも動きや表情も違うのに、

ちゃんと同じ人物なのだと思えるのが不思議だった。


伯爵が最初に出会ったブルボン伯爵夫人を演じた小見さんは、

これまでもこの劇団の公演で拝見していて素敵だったので、今回も楽しみにしていた。

知識というものを信じる率直な強さと同時に、周囲に向けるまなざしの温かさが印象に残る。


伯爵が次に出会ったひよ子を演じた相楽さん。

透明感透明感、と劇中でも言われていたとおり、

凛と背筋を伸ばした雰囲気と混じりけのない純粋さが透き通るように美しく、

儚い役柄がいっそう際立った。


次の恋人よっちゃんを演じた野口さん。

チンピラなんだけど、伯爵に向ける言葉はなんていうかとても愛情深く優しい。

そういう役柄を繊細に演じて魅力的だった。

2人が捕まったあとのいくつもの会話が、切なくて印象に残る。


4人目の恋人UHAを演じた志水さん。

破天荒なキャラのまっすぐな強さを充分に表現していて心惹かれた。

このエピソードの最後で2人が抱き合うところは、作品中でもっともハッピーな場面のひとつだろう。


最後の恋人コリスを演じた浅利さん。

平明な率直さで、終末へ向かう時間を丁寧に描き、

ラストシーンに向けて、温かさと信頼感が漂う雰囲気を創り上げていた。


先に書いたように、この作品は、ここに上げた5人と伯爵との物語で構成されてはいるものの、

短い会話劇を別々に5つ、ということでは決してなかった。


エピソードを積み重ねることによってしか描けないもの。


幕や暗転の多用で、伯爵が経てきた時間の経過を共有させつつ、

複数のエピソードを有機的に重ねていって、

人と人が出会うことについての長い長い物語を紡ぎだしていた。


終盤で、「出逢うために生きているんだ」と、主宰の今村さんに言わせていたことで、

冒頭に上げたMrs.fictionsの行動指針を思い出すとともに、

そこに込められた意味や想いについて考えたりもしてしまった。


モロゾフとロイズの貴族コンビと右足と左足の奴隷コンビとか、

伯爵に振られるリスカと湖池と江崎とか、

出オチ的な宇宙人のパパとセクシーなママとか、
超キャラの濃かったカバヤとカクダイとか、

どの登場人物もそれぞれ印象的で愛しく感じられた。


また、開演前や終演時にかかっていた曲のチョイスや、

登場人物の名前がお菓子メーカーしばりになってるところ、

セリフの中の細かなネタなどたくさんの遊び心も楽しかった。


作品そのものとは別に、早い時期からホームページやツイッターでさまざまな告知を行ったり、

事前振込み特典に昨年上演した作品のDVDをつけたことなど、

いろんな意味で、この公演を大切にされている想いが感じられて、

観客にとってさえ、なおいっそう大切な舞台となった気がする。


大傑作!とか、そういう大上段な言葉で語るのはなんだかしっくりこないけれど、

ただ、思い返すとぽっと胸に灯がともる、大切な思い出のような舞台。


劇場に足を踏み入れてから、開演前のスタッフワークや終演後の人いきれまで含め、

そこにいることに幸せを感じる、心地よい優しい時間となった。