平成25年10月5日(土)14:00~、成増アクトホールにて。

原作/太宰治
脚本・演出/小沢瞳
音楽監督/紫竹ゆうこ
作曲/紫竹ゆうこ・小沢剛・齋藤大輔・黒木いづみ
作詞/小沢瞳・長掛憲司

出演/
メロス:齋藤大輔(太鼓、ドラムス、カホン)
セリヌンティウス、セレス:菅野真以(シンセサイザー、他)
王:小沢剛(尺八、篠笛、フルート、サックス、他)
フィロストラトス:黒木いづみ(箏、チャッパ、他)

あらすじ/
メロスは、『人を信じる事ができなくなった』邪智暴虐の王に立ち向かった。
王はメロスの処刑を命じたが、彼は妹の結婚式のためどうしてもふるさとに戻らなければならない。
そこで親友のセリヌンティウスを身代りに立て、3日目の日没までに必ず王のもとへ戻ると約束した。
約束までに戻らなければセリヌンティウスの命は無い。
立ちふさがる困難、襲いかかる不安と後悔に立ち止まりそうになる。
だが、走れメロス!!何が彼を立ち上がらせ、走らせるのか!!
(わらび座公式ホームページより)

一応あらすじを転記してはみたけれど、ホントはそんなことをする必要もないだろうと思う。
だって、日本人でこの物語を知らない人がいるだろうか?

この舞台は、そんな有名な物語を多彩な楽器の演奏による音楽でつづっていく。


「Performance Band 響」は、わらび座の中でもやや独特な公演班だ。

民俗舞踊でもミュージカルでもない、

実際に観てみると、パフォーマンスバンドという名前がなるほどピッタリだという気がする。


キャスト名のところにも記載してあるとおり、

和洋問わず数多くの楽器を生かした演奏と、歌やダンスなども含めて、物語を展開していく。


また、こういう作品以外にも、

わくわく和ライブなど、楽器演奏メインのステージも行っている。


この『走れメロス』は、2011年秋から上演している作品なのだけれど、

観ることができたのは、去年の夏のわらび劇場公演と、今回でたぶん2回目だった。

響は中学校・高校などの学校公演を中心に活動しているため、なかなか観る機会がないのだ。


そして、学校公演が中心なためだろうか、舞台の展開がとてもキャッチーだ。


「メロスは激怒した」という有名な冒頭から、激しいメロディが始まり、

突然、『走れメロス』を上演するにあたっての配役決めになったりする。


そのメタフィクションめいたやり取りで、

出演しているメンバーやセリヌンティウスなどという馴染みの薄い固有名詞について、

観客はすっかり親しみを感じてしまう。


教科書にも載っていそうなこの作品の、聞き覚えのあるフレーズに混じって、

早くに父と母を亡くしたメロスとセレスの兄妹が、逆境の中寄り添いあって生きてきた様子や、

親友のセリヌンティウスとの出会いなどを加えることによって物語を膨らませ、

メロスの妹や親友への想いにいっそう感情移入しやすくなっている。


物語が進むにつれ、さまざまな楽器の演奏も激しさを増す。

音が感情を揺さぶり、自分の胸の鼓動が舞台の上の空気と共鳴する。


また、メロスが山賊に襲われる場面などは、

コミカルな雰囲気で、客席の通路まで走り回り、観客に話しかけたりもする。


そういう、関心をそらさない工夫が随所にこらされているため、

多くの学校公演で、たくさんの学生さんが興味深くこの作品をご覧になったことだろう。


もちろん、大人が見ても迫力ある面白い舞台となっている。


後半の山場。力尽きようとしたメロスが、清い水の流れを見つけ、

再びまた走り出す場面などは、息を飲むようにして見つめてしまった。


photo:01


黒木いづみさん。


柔らかい笑顔と、琴を奏でるときの真摯なまなざし。

コミカルな場面での可愛らしい雰囲気も素敵でした。

photo:02

小沢剛さん。


王の孤独を歌う「ブラック ブラック」という曲のダークな雰囲気が印象に残ります。


尺八やフルートやサックスなどさまざまな笛の音はもちろんですが、

舞台全体の流れを牽引するのもこの方だろう、と観ていて感じられました。

photo:03


菅野真以さん。


キーボードも歌声も素敵でしたが、

花嫁となる妹の初々しいさとはじけるような喜びの笑顔や

親友セリヌンティウスの凛とした覚悟など、芝居部分での活躍が特に印象に残ります。


ハードな舞台だろうと思うのですが、

キラキラした笑顔でとても楽しそうに演じてらっしゃいました。

photo:04



齋藤大輔さん。


最初の配役決めの場面で、

「オレなんかがメロスをやったら、2013年のメロスはヘナチョコだって言われちまうよ」と

いうような台詞があるんですが、もちろん、そんなことはなく、

熱血漢の役がピッタリの凛々しさで、舞台のみならず会場中を走る姿は、まさにメロスでした。


ドラムスや和太鼓のパワフルな演奏と、汗だくでの熱演についつい引き込まれました。



音楽と物語が融合したとても迫力ある舞台で、

会場を満たす観客が息を飲むように見つめていました。



カーテンコールでの客席からの拍手もチカラがこもり、

会場のあちらこちらから、「ブラボー!」という声も聴こえてきました。


この『走れメロス』は、2014年3月まで上演される作品です。


一般公演は残りわずかですが、機会があればぜひまた拝見したいと思ってしまいました。



なお、この作品の曲目と使用楽器のリストが公式ページにありましたので、

参考にリンクを貼っておきます。 


わらび座HP 『走れメロス』あらすじ&曲目 http://www.warabi.jp/hibiki06/story.html