「ジャズと映画とベースボール」97 バベットの晩餐会 | JAZZ&Coffee kikiのブログ

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幸せってなんだろうな、とふと思うことがある。別に哲学的な考察ではなく、漫画の吹き出しのように頭にポッと疑問符がつく感じである。そして、別に食い意地が張っているからでもないだろうけど、おいしいものを食べたときのことが思い浮かんだりする。幸せって意外に身近なところで感じることはできるかもしれない。

「バベットの晩餐会」(1987 ガブリエル・アクセル)は荒涼とした風景の中に、小さな幸せが広がる物語である。デンマークの北の海に面した寒村に流れ着く、訳ありの女性シェフが一晩限りの晩餐会を催す。見ようによっては”さすらいのガンマン”という雰囲気もなくはない。実は、このシェフはパリの動乱を逃れてやってきて、信仰心のあつい牧師の娘姉妹のもと、家政婦として働き始める。そこに宝くじに当たった知らせが届く。そして晩餐会ー。

招待された姉妹と村人たちはそれぞれが負の過去を持ち寄ってテーブルにつく。さらに食材の生きたウミガメにショックを受けた姉妹が天罰を恐れ、食への不信感も携えている。しかし、選び抜かれたワインと丹精込めた一皿一皿が徐々に招待客の頑なな心を解きほぐしていく。やがて、柔らかな表情に笑みが広がっていく。いがみ合いは思いやりに、心のすれ違いは修復に変わる。パリを知り、シェフの正体を見破っていく地元の士官の存在が、貧しい村人と豪華な料理の間に入ってストーリーを展開させる。何も豪勢な食事がいいというわけではないが、一流シェフの手になる魅惑の料理の魔法を見るようでもある。

個人的には晩餐会の食前酒として用意された「アモンティリャード」が気になって、後日、買い求めた。空っぽの胃が甘さを伴ったアルコールに刺激されて、とてもおいしかった。小さな幸せがそこに確かに広がった。(1月9日)