此岸(しがん)-現世側から冥界の彼岸に渡るには三通りの方法がある。

一審による書類審査で罪が軽いと判定された者は、獄卆から比較的流れのゆるやかな

上流の「山水瀬」(やますいせ)を行くように指示される。

 なるほど、水は人の膝下までしか届かず、人々は比較的安心して川を渡ることができるのである。

そうは言っても川巾は870㎞もあり、障害物が無くとも躓く危険もあるのだから人々は六文(倭国の通貨、換算した各国の通貨でも可)を払って渡し船に乗るのである。

 

中流では「有橋渡橋(うきょうとばし)」と呼ばれる巨大な橋を渡るのであるが、渡れる条件が

”善人”でなければならないという事である。

一応獄卆の方で指示するのであるが、10審までの間に、新たな罪が判明したり、遺族による追善供養が不十分な場合は改めて起訴されるのである。

同橋は当初石造りで、頑丈な造りであったが度重なる台風や洪水の被害を受けて破壊されることが多く、行政官たちの頭を悩まし続けていたが、20世紀後半に入ってから5審で閻魔王に裁かれた倭国の”Mr.タナカ”(生前、「美国=アメリカ」との貿易取引に関して収賄容疑で起訴されていたが死亡し、引き続き地獄の5審で閻魔王の裁きを受け、丁々発止と遣り合ううちに意気投合し、ついに無罪を勝ち取って、現在は極めて親密な関係にある)が、自身の全能力と財力を駆使して見事な吊り橋(高架橋)を完成させたのである。

 

下流は「江深渕(こうしんえん)」と呼ばれ、水深も深く、濁流渦巻く激流となっている。

そのうえ、溺れて水底深く沈むと、普段は京の「神泉苑」や鞍馬寺の龍王岳等に潜んでいる

龍神たちが現れて襲い掛かる。

慌てて浮き上がれば、鬼王夜叉の連弩で射抜かれるのである。

 もとより江深渕を渡ろうと試みる者は、"悪人"である。

弓矢の機関銃である連弩の雨をかいくぐって、対岸へ渡らなければならない。

 

※連弩:漢書「李陵伝」には、前漢の武将李陵が匈奴の単于を連弩をもって射殺したとある。

                                                    つづく