118●岸田秀

 

岸田秀を読んでいると精神分析という学問をつくったフロイトを読んでみたくなるが、難しそうなので漫画で読むフロイトを探すとけっこうあって、読んでみると、かなり面白かった。

私も入門書を何冊か編集したことがあるが、頭のいいライターがちゃんと本をたくさん読んで、その中から一番面白くてわかりやすいエピソードを必ず入れる。

一番面白いエピソードが入門書にはちゃんと書いてあるから、入門書を読んで面白くなかったらその世界を細かく読んでいっても面白くない。

子供が入門書や児童書を読んでその世界に興味をもち、将来学者になるということがよくある。

フロイトをちゃんと読んだ人がその面白さを漫画にしてくれているから、フロイトの一番面白いところはきちんと漫画にも描かれているはずだ。

男の子が馬を恐がる。男の子はお母さんのことが大好きで、だからライバルであるお父さんを恐がり、それでもお父さんのこともやっぱり好きで、お父さんの代わりに馬を恐がる。

幼い男の子はお母さんに恋愛感情を抱き、幼い女の子はお父さんに恋愛感情を抱く。

精神分析医が男の子に、

「君はお母さんのことが大好きだから、お父さんのことを恐がるのだけれど、お父さんは君のその気持ちを知っているけれど、君を恐がらせるようなことをしないよ」と説明してあげたら、男の子は馬を恐がらなくなった。

原因がわかると反応が変わる。

抑圧して隠して、自分でも忘れてしまった気持ちに自分で気づき、その気持ちに整理がつくと症状がおさまる。

女の人が原因不明の足の痛みを訴えた。

話を聞いていくと、彼女は姉の夫に恋愛感情をもっていて、足の痛みをつくり出すことによって自分を罰し、恋愛感情を回避していると自覚した。

原因を自覚し、自分自身の中で心の整理ができると原因不明だった足の痛みがすっかり消えた。

ひたすら患者に話をさせ、患者の話をさえぎらずに根気よく聞き続けていくと、原因となる話が出てくるという治療法だった。

岸田秀の本を読んでいると自分が精神分析されている気分になり、スッと気持ちが楽になる。

多くの人が岸田秀の本を読んで救われている。

たくさんの症例をわかりやすく面白く解説し、自分に合った症例を読んでいくうちに素直に納得し、気持ちが軽くなる。

自殺しないで済んだ人もいるだろう。犯罪をしないで済んだ人もいるだろう。

私も岸田秀を読んですごく楽になった。私も母が嫌いだったことに気づき、親戚と縁を切ることもできた。相続放棄する勇気が出たのは間違いなく岸田秀を読んだおかげだ。岸田秀の本はほとんど全部買って読んだ。自分の心の苦しみの原因がかなりわかったような気持ちになり、そこから逃れる方法の第一歩が相続放棄だった。

自分が虫けらと同じレベルの存在だ、と自分から認めることができると、少し楽に生きていける。

気持ちが強くなり、余裕が出て、相手にのぞめる。

勝てる気がする。乗り越える手段を見極め、道を選択して前へ進むことができた。

呼吸が苦しいほど気が滅入ると岸田秀の本を読む。このままでは何か事件を起こしてしまいそうな気がする。誰かにやつあたりしたい。静かな映画館や図書館で突然大声を出す自分を想像する。

読むより書き写すほうが頭に入る。岸田秀の文章をかたっぱしからひたすら書き写していくと心が楽になる。

病院に行く必要がなくなる。