※大宮妄想小説です

オメガバース(α、β、Ω)のある世界線で生きている二人

お話の都合上、メンバーの年齢差やにのちゃんの家族構成(にのちゃんは大家族)、田舎育ちなど全てフィクション

 

 

 

 

「すまない」

 

 

何を謝ったのだろう。

 

 

「……体は、大丈夫か」

 

「あ、はい……」

 

 

少し考えて、少しだるいというか、ぼんやりしますと答えた。

 

 

「薬の副作用かもしれないが、疲れもあるだろうな。今日はこのまま休もう」

 

 

そのままで、と囁いた大野の手が和也の手首に伸びてくる。

 

風呂前には外すようにしていた父から譲り受けたブレスレットを、大野は慎重すぎるくらいにゆっくりと外した。

 

手首に触れる指の感触に頬が熱くなる。

 

チャリと音を立てるブレスレットを手のひらに載せ、サイドテーブルにやはり慎重な手つきで置いてくれる。

 

宝物でも扱うような仕草だった。

 

この人のこういうところがとても好きだと思う。

 

……なんだか全然分からないけど、もういつもの智さんみたいだ。

 

やっぱりお酒のせいかもしれない。

 

いつものように手を繋いで眠るのだろうと思うとすっかり安らいだ気持ちになり、大野の背中をのんびりと眺めた。

 

大野はクローゼットからティーシャツを取り出し、和也の上半身を抱き起こして頭から被らせてくれた。

 

病人か小さな子どものような扱いである。

 

申し訳ない気はするが、大野の匂いに包まれた心地良さと、きっと今日の罪滅ぼしのような気持ちで大野がそうしているのだろうと思うと、固辞する気にもなれなかった。

 

だが自身も着替えて布団に入り込んできた大野が和也を横向きに転がし、あろうことか後ろから抱きついてきたときには、さすがに黙ってはいられなかった。

 

 

「さ、智さん? なんですかこれ」

 

 

ようやく静まりつつあった心臓がまた暴れだす。

 

大野は和也の上半身をすっっぽりと両腕で抱き込み、和也の手の甲に手のひらを重ねた。

 

 

「今日はこうして眠る」

 

「どうして」

 

「倒れたばかりだろう。今日はできるだけ触れ合いを多くするようにと松本に言われている」

 

 

穏やかな低い声が頭のすぐ後ろから響いてくる。

 

 

「だからって」

 

「嫌ならやめる」

 

 

カズが嫌じゃないならやめない──先ほどと同じ調子で言われて、ぐ、と言葉に詰まった。

 

この人は結構ずるい人なんじゃないだろうか。

 

新たな一面を発見したような気がする。

 

 

「……心臓が止まるかと思ったんだ」

 

 

ぽつりと呟く声が掠れていた。

 

思わず振り返ろうとした体の動きを、一層強く巻きついた大野の両腕に阻まれる。

 

 

「できることをさせてくれ。頼む」

 

 

ズボンも借りればよかったと今更になって思った。

 

むき出しの素肌に滑らかなシーツは心地よいが、背後の大野の体温を直に感じてしまうし、時たま触れる大野の膝や太腿の感触にもいちいち反応してしまう。

 

顔が熱い。

 

体も熱い。

 

 

「嫌じゃ、ないです」

 

 

どうにかこの胸の早鐘が聞こえませんようにと祈りながら、これだけは伝えなければと言葉を絞り出す。

 

背後でそっと息を吐く音がした。

 

大野が僅かに身じろぎ、その拍子に大野の髪の毛先が和也のうなじをくすぐる。

 

思わず首をくすめると、そのうなじに一瞬だけ温かいものが触れた。

 

 

「カズ」

 

「は、い」

 

「……俺もカズのことを、迷惑なんて思わない。絶対に」

 

 

何のことかと戸惑ったが、すぐに浴室での会話の続きなのだと気づき、こくこくと必死で頷いた。

 

……いま触れたのは唇ではなかっただろうかと思うが、確かめる術がない。

 

確かめたとして、この状況でその意図まで聞ける気はしなかった。

 

今日は触れ合いを増やすように言われたのだと大野は言った。

 

ではこうして抱きしめてくれていることだけでなく、脚やらくるぶしやらを舐めたのも、いま恐らくはうなじに口づけたのも、すべて触れ合いの一環ということか。

 

そう言われたのなら納得できる。

 

先に説明してほしいとは思うけれど。

 

この人はサポーターとして、不完全な自分を守ろうとしてくれている。

 

責務を果たそうとしてくれている。

 

そしてきっとそれだけではなく、和也を心から心配してくれてもいる。

 

それだけで十分にありがたいし、嬉しいと思う。

 

 

──それなのに、自分はきっとどうかしてしまったのだ。

 

 

くるぶしに、ふくらはぎに、そしてうなじに触れた唇の温度が忘れられない。

 

あのときは本当に逃げ出したいくらい混乱していたのに、あの唇でもっと触れてほしいと、今更になって体中の肌が渇きを訴えているようだった。

 

どうかしていると思うのに、眠りに落ちる瞬間まで、その渇きを忘れることはできなかった。

 

 

 

 

 

続く

 

 

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