※大宮妄想小説です

オメガバース(α、β、Ω)のある世界線で生きている二人

お話の都合上、メンバーの年齢差やにのちゃんの家族構成(にのちゃんは大家族)、田舎育ちなど全てフィクション

 

 

 

 

「二宮君?」

 

 

松本の気遣わしげな声にはっとして顔を上げる。

 

ついぼうっとしてしまっていた。

 

ミステリアスな光を帯びた大きな瞳が和也を覗き込んでいる。

 

 

「本当に大丈夫ですか?   どこか具合が良くないのでは?」

 

「平気です、すみません」

 

「今のところ二宮君と大野さんは相性がいいようですが、接触療法が効果を及ぼすメカニズムは解明されていない部分も多いんです。今が良くても、このまま今後も体調が安定するとは限らないんですよ」

 

 

だからけして無理はしないようにと、念を押された。

 

あまりそういう目で見たことはなかったが、厳しい顔をしていても、同性であっても、綺麗な人だなと思う。

 

智勇兼備で眉目秀麗というのはこういう人のことを言うのだろう。

 

松本が非常に聡明であることは、たまにこうして話をするだけの和也にも分かる。

 

智さんと並んでいたらお似合いだよな──想像すると、また胸の中の石ころがごろりと転がって嫌な音を立てた。

 

 

 

 

キャンパスには複数の門がある。

 

マンションに帰るには病院から一番近いものを通るのだが、病院を出た和也が向かったのはそれとは反対側の門だった。

 

足早にキャンパスを横断する。

 

日の暮れたキャンパスには、まだあちらこちらに学生たちがたむろしていた。

 

空気がじっとりと湿っている。

 

星がひとつふたつ輝き始めた空を見上げると、一瞬だけ目眩がした。

 

頭を軽く振って先を急ぐ。

 

いつもと違う門を出て、通り沿いのレトロな赤提灯が下がった店のドアをくぐれば、途端に店内の喧騒に飲まれる。

 

和也が店員に声を掛けるより早く、あっおいニノこっちこっち! と呼ぶ声が店の奥から聞こえた。

 

 

──たまには皆と飲みに行こうぜ──

 

 

相葉の誘いに今日に限って頷いたのは、どうせ大野は帰りが遅いのだからという気持ちがあったからだ。

 

あの家で一人で食事をするのは気が進まなかった。

 

掘り炬燵の席には大学の同期が十人近くぐるりと座っている。

 

相葉の隣の席が空いていたのでそこに腰を下ろした。

 

注文したジンジャエールが運ばれてくると、各々おしゃべりに興じていた同期たちが一旦話をやめ、飲みかけのグラスを揚げて乾杯をしてくれる。

 

和也たちはほぼ全員が未成年だが、この店は大学生御用達なだけあって、ノンアルコールの飲み放題メニューがあるらしい。

 

 

「二宮くんが来るなんて珍しくない? いつもさっさと帰っちゃうから嬉しいなあ」

 

 

斜め向かいに座っているロングヘアの女子がにこやかに声を掛けてくる。

 

実は学外に彼女とかいるんじゃないのって話してて、ショック受けてた子もいたんだよ、ねえ? と彼女は別の女子と勝手に盛り上がり始めた。

 

曖昧に笑って誤魔化す。

 

 

「おい、なにモテてんだよ裏切者め」

 

 

相葉がぼそりと恨めしげな声を出す。

 

 

「別にモテてないでしょう」

 

「女の子がショック受けてたって言ってただろう。きっとその子、ショックがでかすぎて飲み会来れなかったんだよ。そういや最近来ない子いるし、きっとあの子のことだ!」

 

「相葉くんの妄想だろう、それ」

 

 

ため息を吐いて唐揚げに箸を伸ばす。

 

遅れて来たのでしかたないが、すっかり冷めていた。

 

サクサク感が失われた唐揚げは油っこく、胃もたれしそうだ。

 

なんだかあまり食欲がない。

 

 

「ニノ、なんか顔色悪くない? どうかした?」

 

 

箸を置いてジンジャエールをちびりちびりと飲んでいると、相葉が横から顔を覗き込んできた。

 

さっきは松本、今度は相葉。

 

なんだか今日は心配されてばかりだ。

 

 

「いや、なんでもない」

 

「嘘つくなよ。なんか悩んでんなら素直に言えって」

 

 

自分は悩んでいるのだろうか。

 

頭の大半を一つのことが占めていて、しかもぐるぐると同じことを繰り返し考えている。

 

確かにこれは悩んでいると言うのかもしれない。

 

 

「あの、さ……」

 

「うん」

 

口火を切ったものの、どう言葉にすればいいのか悩み、唇を舐める。

 

だが相葉が促してくれたように心のまま素直に口にしてみることにした。

 

 

「……ある人につき合っている人がいるかもしれなくて、俺はそのことを考えると憂鬱みたいなんだ」

 

 

憂鬱。

 

そうだ、この胸の中の石ころはそういう名前だった。

 

言葉にすると感情の輪郭がはっきりするのが分かる。

 

 

「それって……」

 

 

アルコールも入っていないのに、相葉の頬にさっと朱が差した。

 

 

「……え、ニノ、それって大野さんのこと……」

 

「えっ? なんで大野さんって分かるんだ?」

 

 

相葉につられたのだろうか、急に頬が焼けるように熱くなる。

 

 

「いやだって、そうだろ? ニノが好きになりそうな相手なんて大野さんくらいじゃん」

 

 

あんなすげえ人と一緒に暮らしてて、他のヤツを好きになるってのも考えにくいし──コーラのグラスを弄びつつ言い募る相葉の声をぼんやりと聞きながら、こめかみにじわりと汗が滲む。

 

 

「好き……?」

 

 

呆然と呟き、空になったグラスの氷を見つめた。

 

 

「いや……俺は大野さんに憧れてて…あんなふうになれたらって思ってるだけで」

 

「でも大野さんにつき合っている人がいたら嫌なんだろう、ニノは」

 

「……嫌だ……」

 

 

智さんにつき合っている相手がいるということは、智さんの好きな相手が智さんを好きだということだ。

 

いいことだと思う。

 

智さんも嬉しいだろう。

 

幸せだろう。

 

でもそうか、俺はそれが嫌なのか。

 

そしてそれは、好きということなのか。

 

これまで誰かのことを恋愛対象で見たことがなかったから分からなかった。

 

 

「……そうか、そうだな。俺はきっと大野さんが好きなんだ」

 

 

胸の中の石ころが一つ消えた気がした。

 

相葉が呆れたように眉間を押さえため息をつく。

 

 

「ニノって意外と鈍い奴だよな。特に恋愛ごとに関してはさっぱりじゃん」

 

 

じっとりと見つめてくる相葉に苦笑を返し、グラスの底に溜まった氷の溶けた水をぐいっと呷るようにして飲み干す。

 

また一瞬くらりと目眩がしたが、石ころが消えた分だけ少し食欲が出てきた。

 

和也は再び冷めた唐揚げに箸を伸ばした。

 

 

 

 

続く

 

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