※大宮妄想小説です

オメガバース(α、β、Ω)のある世界線で生きている二人

お話の都合上、メンバーの年齢差やにのちゃんの家族構成(にのちゃんは大家族)、田舎育ちなど全て妄想

 

 

 

 

未分化と診断されてから数年のうちに、自分でも調べたし医師からも説明を受けていた。

 

本来分化すべき時期を過ぎても未分化の体は極めて不安定で、何らかのケアを受けなければ危険であるということ。

 

かつては未診断のまま早逝する例が多かったということ。

 

そしていまも、必要な治療を受けてもなお、助からない例もあるということ。

 

 

「大丈夫ですよ。大野さんのおかげで俺、ずっと体調がいいですから」

 

 

安心してほしくて笑顔を向けるが、大野の表情は硬いままだ。

 

話題を変えたほうがいいだろうかと本棚に目を戻すと、同じ段の端に少し変わった装丁の本があることに気づいた。

 

表紙が分厚く、手に取ってみると正方形をしている。

 

さらさらとしたカバーには水彩画のようなタッチで二羽の鳥の絵が描いてあった。

 

木の枝に並んで止まっている。

 

 

「これは……絵本ですか?」

 

「ああ、童話のようなものだ」

 

 

ぱらぱらと捲ってみると、どのページにも様々な場所で羽ばたいたり止まったりしている二羽の鳥の絵と、それに添えて数行の文章が印刷してある。

 

 

「運命の番(つがい)をテーマにした本だ」

 

「運命の番、ですか」

 

「本能的に強く惹かれ合う、互いに唯一の相手……とでも言う。αとΩにはそういう相手がいるのだと言われている。αは本来、番以外のΩのフェロモンにも惹かれる可能性もあるが、番関係のΩが運命の相手なら他のΩのフェロモンに惹かれたりはしないそうだ」

 

 

そういう話なら大野さんにもいつか運命の番が現れるのだろう──そう考えたところで、大野が小さく首を振る。

 

 

「運命の番というものは遺伝子的相性が100%と聞くから個人的には夢物語だと思う。もし仮にそんなものがあるとしても、一生のうちに出会うことはまずないだろう」

 

 

αとΩの人口比率を考えれば、確かに大野の言う通りだろう。

 

本の最後のページには、レースのような飾り格子のついた鳥籠の中で羽を畳み寄り添う二羽の姿が描かれていた。

 

本を閉じて本棚に戻すと、そのすぐ横の「Ω化するα」というタイトルが目に入る。

 

 

「αがΩ化するって、どういうことですか?」

 

 

比喩的な意味だろうか。

 

その背表紙を指差しながら尋ねると、ああそれは──と言いかけた大野が、何かを思い直したように口を噤んだ。

 

 

「……一言で説明するのは難しいが、特定の状況下でそういうことが起こることもある」

 

 

また歯切れが悪くなる。

 

だが先ほどとは違い、そう深刻そうな表情ではなかった。

 

気まずそうにしていると言ったほうが近いだろうか。

 

気にはなったが、どうも大野は詳しく説明したくなさそうにしているし、知りたければ自分で読めばいいことだ。

 

それ以上聞くのはやめておき、背表紙をもう一度眺める。

 

 

「ここにある本はどれでも好きなときに読んでいい。今日はもう休もう」

 

「あ、はい」

 

 

顔を上げた瞬間、大野の手のひらがにゅっと伸びてきて視界を覆い、息を呑んだ。

 

反射的に目を瞑る。

 

鼻先につん、と触れる感触があって瞼を開けると、大野は和也の鼻を指先で撫でながらおかしそうに笑っていた。

 

 

「少し赤くなっている。焼けたな」

 

「ああ……日焼け止めを塗ればよかったです。赤くなりやすいんです俺、お風呂でもけっこうヒリヒリしちゃって」

 

 

そうだ、と和也は大野に背を向け、ティーシャツの襟ぐりの後ろ側を引っ張って肌を露出させた。

 

もう片方の手で襟足を軽く持ち上げる。

 

 

「こっちなんてもっと焼けちゃったんです、見てください。赤くなってません? 皮が剥げないといいんですけど」

 

「ん……」

 

 

なぜか大野が声を詰まらせた。

 

どうしたのだろう。

 

振り返ろうとしたが、その瞬間に両肩を後ろからがっしりと掴まれてしまい叶わなかった。

 

 

「え、あの、大野さん?」

 

「振り向くな」

 

 

有無を言わさぬ口調だった。

 

肩を掴まれた格好のままぐいぐいと押され、操り人形のように大野の部屋へ移動する。

 

電気のついていない部屋に入るとようやく解放された。

 

疑問符を抱えたまま、大野に続いて無言のまま布団に潜り込む。

 

ふわりと甘い匂いが鼻腔を擽る。

 

……あれ、手が来ないな。

 

いつもなら布団に入ってすぐ、大野の方から手を繋いでくれるのだ。

 

ところが今日はいつものタイミングで手が伸びてこない。

 

俺から繋いだ方がいいのかな──そう考え始めたところで、突然肩を掬うようにして押し上げられた。

 

 

 

 

続く

 

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