※大宮妄想小説です

こちらは以前あげた短編、「続きは鍵をかけてから」のリーマン大宮のその後──まだ付き合って日が浅い二人

やはりこの二人は「酔い」がテーマの一つになってしまいます

 

 

 

 

半開きになった唇から、甘ったるい喃語のような声が断続的に漏れている。

 

「や」とか「あ」とか、だいたいは意味のない、あるいはどれも同じ意味合いの声だ。

 

閉じた瞼はほの赤く、それを縁取る睫毛は細かく震えている。

 

ベッドに仰向けに寝転がる恋人は、夢と現の狭間で揺蕩っているようだった。

 

恋人──和也のネクタイに手を伸ばして解き、襟元から一つ、二つと釦を順に外していく。

 

袖から腕を抜き、背中の下からワイシャツを引き抜いてもなんの抵抗もない。

 

次は下半身だ。

 

ベルトを外し、ジッパーを下ろし、裾を引っ張る。

 

すっかり剥き身になった体を見下ろして、俺は一つ息を吐いた。

 

常夜灯の灯りに浮かび上がる肢体は無駄なく引き締まり、いくら眺めても飽きるということがない。

 

 

「……冷えてしまうな」

 

 

頭からつま先までくまなく視線を這わせて八往復。

 

そこで我に返り、用意しておいた寝間着を手に取った。

 

いま脱がせたばかりの体に逆再生の手順で着せていく。

 

ふくらはぎに触れたときと背中を支えたときの二度、和也はまた甘く掠れた声で呻いた。

 

そのたびに卸しがたい衝動が、脊髄の中を電流のごとく駆け上がる。

 

奥歯を噛みしめてやり過ごした。

 

飲みすぎると決まってこうなる。

 

だからほどほどにするように言ったのに。

 

酔っ払って寝てしまったときの和也は、薄桃色に上気した頬といい弛緩した四肢の様子といい無意識に零れる声といい、なんというか──実に見覚えのある姿になるのだ。

 

端的に言って理性が危ない。

 

終始機嫌よくグラスを空ける恋人が可愛かった。

 

ひと口ふた口でふわりと桃色に染まる頬も首筋も、濡れた唇の赤も、いつも以上に潤んだ琥珀色の瞳も、アルコールなどよりよほど刺激的で強く言えなかった俺にも責任の一端はある。

 

そう自分に言い聞かせ、もう一度脱がせたくなってしまうのをどうにか堪えた。

 

いくら恋人同士でも、寝ている彼に手出しはできない。

 

大野さんになら何をされてもいい、されて嫌なことなどないと何度も言われてはいるが──それにしては「やだ」「無理」「だめ」と毎回怒られている気がする──それは俺にとって許しというよりむしろ強固な縛りだった。

 

愛しい相手から寄せられる無条件の信頼はこの上ない喜びだが、同じだけ恐怖でもある。

 

俺は彼の上司でもあるが、ベッドの上ですることは全て、ひとつひとつ和也の許可を得ると決めていた。

 

ここだけの話、それもまた愉しいものなのだ。

 

寝間着姿になって落ち着いたのか、和也は健やかな寝息を立てている。

 

口は相変わらず半開きで、喉が乾燥してしまわないか心配だ。

 

閉じてやろうと手を伸ばし──指先にあたたかな吐息を感じた瞬間、ふと魔が差した。

 

和也の唇に触れた指の腹が、誘われるように奥の赤い暗闇へと滑り込んでいく。

 

唇の裏側。

 

頬の内側。

 

アルコールのせいもあるのだろう、指を差し入れた口の中は熱く蕩けていて、まとわりついてくる唾液は煮詰めた糖蜜を連想させた。

 

中の狭さも熱さもいまの俺はよく知っていたが、こうして手で触れるのは初めてだ。

 

また脊髄の中がぞわぞわし始める。

 

これはよくないと、未練を振り切って指を抜いた。

 

 

──失敗した。俺も自分が思っている以上に酔っているのかもしれない。

 

 

やや酒量を間違えた自覚はある。

 

和也は俺と酒を飲むのが好きだ。

 

自分が飲むのも、飲んでいる俺を見るのも楽しいという。

 

 

──智さんって飲むと少しだけ饒舌になりますよね。ふふ、もっと飲みましょうよ。ねえ智さん、楽しいですねえ──

 

 

恋人に火照った体をすり寄せられ、まだ呼び慣れていないからとなかなか呼んでくれない下の名前で囁かれる。

 

緩み切った笑顔でそんなふうに強請られて、拒める男が果たしてこの世にいるだろうか。

 

ため息をついて反らした視線が、ベッドサイドのスマートフォンを捉えた。

 

いいことを思いついて無意識に口の端が上がる。

 

手早くスマートフォンを操作し、俺が着せた寝間着で無防備に眠りこけている恋人の姿をカメラに収めた。

 

明日になったらこの証拠写真を見せて、今夜の彼がどんなに魅力的だったか、おかげで俺がどれだけ煩悩したか事細かに語ってやろう。

 

きっと彼はひどく赤面し、恐縮し、俺の我儘の一つや二つ快く聞いてくれるに違いない。

 

うっすらとアルコールの香るシーツに体を横たえ、和也にかけてやった布団の中に潜り込んだ。

 

閉じた瞼の暗闇の中、ふくらはぎのなめらかさと煮詰めた糖蜜の温度が思い浮かぶ。

 

幸いにも明日は休日で、時間はたっぷりある。

 

 

「カズの目覚めが楽しみだ……覚悟しとけよ」

 

 

まずは、二人きりのときくらい俺の名を下で呼んでもらうことからお願いしようか。

 

その次は───

 

どうにも悪だくみが捗ってしまい、なかなか眠れそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

ただいま執筆中の「その林檎を食むときは」は10話まで書き上げましたが、15話書き上げられるまでもう少々お待ちくださいね。

特に序盤は伏線を抜けのないようしっかり張っておかないと後半上手く回収することが困難なので……(>_<)

 

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