※大宮妄想小説です

オメガバース(α、β、Ω)のある世界線で生きている二人

お話の都合上、メンバーの年齢差やにのちゃんの家族構成(にのちゃんは大家族)、田舎育ちなど全て妄想

 

 

 

 

ソファの布地は滑らかで、素肌にも心地よい。

 

風呂に入る順番では一通り揉めた。

 

揉めた挙句に和也が「家主を差し置いて入るわけには」と迂闊なことを口走り、「俺は家主ではないから問題ない」と有無をいわさぬ笑顔で言い切った大野に、半ば無理やり風呂場に押し込められた。

 

今日は移動時間が長かったこともあり、シャワーで汗を流すと生き返ったような心地がした。

 

寝間着のティーシャツとハーフパンツは実家でも毎日着ていたものだ。

 

いつもとは違う場所で、無防備の象徴のような格好をしているのがどうも落ち着かない。

 

肩に掛けたタオルでまだ水気を含んだ毛先を拭き取っていると、洗面所の方からドライヤーの音が聞こえてきた。

 

あのふわりとした質感の髪はこうして作られているのだろうかとぼんやり思う。

 

やがてドライヤーの音が止まり、和也はなんとなく居住まいを正した。

 

案の定、間もなくリビングのドアが開き大野が入ってくる。

 

スウェットのズボンでティーシャツとラフな格好をしていても、やはり男前である。

 

大野は本棚の脇に立てかけるように置かれた鞄を開けて何かを取り出し、和也のすぐ左隣に腰掛けた。

 

 

「これをつけてくれ」

 

 

大野が差し出したそれは、銀色の腕輪のように見えた。

 

一瞬女性ものの腕時計かと思ったが、文字盤がない。

 

 

「カズのフェロモンの値をモニタリングするためのものだ。センターに逐時データが送られるようになっている」

 

「これも治療のためですか?」

 

「カズの場合はそうだ。ただαやΩの人間は、個人用のものを日常的に身に着けていることが多いな。フェロモンは体調に大きく影響するから、健康管理の一環として」

 

 

これもそうだ、と大野は自分の耳朶を指差した。

 

丸みのある金属片がくっついている。

 

用意してくれていたのが腕輪でよかったと思う。

 

大野と同じようなタイプのものだったなら、耳に穴を空けなければならないのだろう。

 

ここでいきなり耳に針を刺して穴を空けろと言われても痛みを想像して竦んでしまいそうだし、腕輪のほうが父が譲ってくれたブレスレットと重ねることでそれなりに見栄えもしそうだ。

 

和也が腕輪を左手首に着けるのを見届けてから、大野が右手を差し出してきた。

 

 

「さっそく、今日の分の触れ合いをしようか」

 

「あ、はい……」

 

 

松本の説明を思い出す。

 

一日に十分程度の触れ合い、と言っていたか。

 

どちらの手を出そうか一瞬迷ったが、まあ腕輪をつけたほうだろうと左手を伸ばした。

 

大野の手のひらにゆっくり重ねると、隙間を埋めるようにぎゅっと握り込まれる。

 

大野の手のひらは和也のそれよりも一回り大きく、体温が高かった。

 

入浴後だからか少し汗ばんでいる。

 

またふわりと花のような香りがした。

 

自分より大きな手と手を繋ぐなんて、いつぶりだろう──少しの緊張と心地よさとで、みぞおちのあたりがどうにも落ち着かなかった。

 

 

「こちらに来てから、体調は大丈夫か」

 

「病院に着いた頃は軽い目眩がありましたけど、いまは大丈夫です」

 

「そうか」

 

 

言われてみると今日は随分体が楽だ。

 

もう長いこと体のどこかに不調があるのが当たり前だったし、大量の薬を飲んでも常に頭の芯が重く怠かったのだが、いまはそれもない。

 

これが大野のフェロモンのおかげだとすれば、接触療法というのはかなり画期的な治療法ではないかという気がした。

 

いまも繋いだ手のひらから、触れ合った肌から、じわじわと体全体が温まってくるような感覚がある。

 

気持ちがいい。

 

段々と眠くなってくる。

 

 

「楽にしていいぞ」

 

 

ほらこんなふうに、と大野がぼすんと音を立ててソファの背もたれに寄りかかった。

 

その目がなんだか楽しそうに笑っている。

 

 

「そんなに姿勢よくしていたら疲れてしまうだろう。家はくつろぐためにあるんだ」

 

 

いいんだろうか──数秒悩んだが、固辞して大野の気遣いを無駄にしたくはない。

 

それに疲れているのも確かだった。

 

大野に倣って背もたれに背中を預ける。

 

本当に気持ちがいいなあと思っているうちに、気づけば瞼が重くなっていた。

 

 

 

 

続く

 

 

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