※大宮妄想小説です

オメガバース(α、β、Ω)のある世界線で生きている二人

お話の都合上、メンバーの年齢差やにのちゃんの家族構成(にのちゃんは大家族)、田舎育ちなど全て妄想

 

 

 

 

窓のない部屋は静かすぎてどこかよそよそしい。

 

天板の白いテーブルと椅子が二脚。

 

片方の椅子に掛けて静寂に耳を澄ませていると、ごく控えめな音を立てて部屋のドアが開いた。

 

ドアの向こうからその男が入ってきたとき、碧空だ、と和也は思った。

 

よく晴れた空を仰ぎ見ると、遥か高いところで豆粒くらいのダイヤモンドのようなものが白くチカチカ輝いている──そんな眩しいくらいの碧空だ。

 

ほど良く明るく染めた、ふわりと空気感のある髪。

 

紺桔梗の色をした瞳は凛として美しく、だが柔らかに微笑んでいるから威圧感はまるでない。

 

端正な顔立ちに、青いシャツの上からでも伺い知れる均整のとれた体躯。

 

全身から溌溂とした生命力が溢れ出ているようだ。

 

まるで旧知の友人に向けるような笑顔を浮かべるその男に、和也は時と場合も考えず、生意気にも感心してしまった。

 

……大人というのは、初対面の相手にもこういう顔ができる人のことを言うんだろうな。

 

 

「掛けたままでかまわない」

 

 

腰を上げかけた和也を制するその声も、姿に違わず明るく朗らかだった。

 

和也が大人しく椅子に座り直すと、男はゆっくりと歩み寄り、テーブルの向かい側に腰を下ろした。

 

 

「初めまして。大野智といいます」

 

「……おおの、さん」

 

 

和也は人見知りをしないたちだったが、さすがに少し緊張していた。

 

知り合いの一人もいない、馴染みのない場所に一人きり。

 

目の前には初対面の男。

 

しかも大野と名乗った彼は、和也が生まれて初めて出会うαなのだった。

 

だが和也にも五人兄弟の長男としての自負があった。

 

どんな状況であろうと怖気づくなど自分らしくない。

 

きゅっと唇を引き結び、真っ直ぐに大野の目を見据える。

 

 

「二宮和也といいます。初めまして」

 

「二宮少年、よろしくな」

 

 

少年っていう歳でもないんだけどな──そう思っていたところ、いや少年は失礼だったな、と大野がすかさず頭を下げた。

 

 

「いえ、気にしてません」

 

 

確かについ先日まで制服に身を包んで高校に通っていた十代ではあるし、既に男の完成形のような姿をした大野を目の前にすると、少年という呼称に甘んずるほかないという気もしてくる。

 

大野は和也の嘘のない声音に安堵したかのように笑顔を見せて、快活に言葉を続けた。

 

 

「まず先に言っておくと、君のサポーターはまだ俺に決まったわけじゃない。この面談のあと君が他のサポーターを希望するようであれば、次の候補者が来ることになっている」

 

 

よく見ると、大野の形のいい左耳の耳朶に何か光るものがある。

 

ピアスだろうか。

 

装飾品にしてはやや素っ気ない形状の、丸みのある金属片がくっついていた。

 

……あまりアクセサリーをつけるような雰囲気の人じゃない気がするけど、でも格好いい人は何をしても似合うな。

 

そんなことを考えて、うっかり相槌を打つのを失念していた。

 

和也の沈黙をどう解釈したのか、大野もまた黙り、じっと伺うような視線を投げかけてくる。

 

紺桔梗色の双眸は真顔で見つめられると気圧されるような迫力がある。

 

思わずごくりと唾を飲み込むと、すっと通った鼻筋の下、形のいい唇が緩やかに弧を描いた。

 

 

「……だから安心して、雑談するつもりで何でも話してもらえると嬉しい。聞きたいことは遠慮なく聞いてくれ」

 

 

大野の声音が急に静かで柔らかなものになる。

 

 

「俺は君のことが知りたいし、俺のことも君によく知ってもらいたい」

 

 

不思議なほど穏やかな慈しむような眼差しで見つめられると、今朝からずっと寄る辺なく彷徨っていた心が、ようやくあるべきところに着地したような気がした。

 

思えばその瞬間、もう和也の中で彼のもとに行くことは決まっていたのだと思う。

 

 

 

 

第二性というものが発見されたのは百年近く前のことだという。

 

男性、女性という第一の性のほかに、この世にはα、β、Ωの三つに分類される第二の性がある。

 

大多数の人間はβに属しているが、身体能力及び知識が高いとされるα、妊娠に特化した性と言われるΩもごく少数だが存在している。

 

Ωには発情期があり、男女問わず妊娠することができる。

 

和也が知っているのはそれくらいだ。

 

義務教育で学ぶ程度の基礎的な知識である。

 

 

『 多くの場合、第二次性微が現れる時期に第二性も明らかになる』。

 

 

これは和也がかつて何の気なしに流し読みした教科書の記述だ。

 

「多くの場合」という言葉の意味を、そのときは深く考えなかった。

 

まさか自分がそこから零れ落ちるなんて夢にも思わなかった。

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

「春を告げる」にご感想よせてくれた皆さん、ありがとうございました。

皆さんの「推し餅」をうかがい知ることもできたりと、それぞれ楽しく拝読させていただきました^^*

お写真の厳選も褒めていただけて嬉しい、あれこれお写真を比較してはその場にぴったり合った一枚があると私もテンションが上がります。

 

 

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