私たちにとって、『食の安全保障』は、何よりも大切なものだ

しかし、日本の『それ』は、驚くほど蔑ろにされている。

まさかここまで? と、誰もが驚くだろう。

政治家や官僚たちの良心を疑うくらいの『食の安全保障』となっている

 

長周オンライン記事から拝借して、学ばせていただいたものを、備忘録とする。

 

 講演の要旨     東京大学大学院 鈴木宣弘教授   

私は、三重県の志摩半島出身で、半農半漁を営む両親の一人息子として生まれ、

田植え、稲刈り、野菜栽培、メインの真珠養殖、うなぎ、牡蠣、ノリの養殖等もやってきた。 

現在も、伊勢農協の正組合員であり、農家そのものの立場で現在の状況を危惧している。

 

国内農業は、生産コストが倍増しているのに、農産物価格は上がらず、

廃業が激増しかねない状況にある。 なぜこんなことになっているのか?

 

遡ると終戦直後、アメリカは日本を余剰農産物の在庫処分場として位置づけ、

貿易自由化(関税撤廃)を迫り、日本人をアメリカの農産物に依存させた。  

これを活用したのが経済産業省で、

農産物を市場開放(関税撤廃)して

「自動車などの輸出で儲けて食料は海外から買えばいい」との考え方を定着させた。

もう一つは 財務省の財政政策だ。  

1970年には  農水予算は約1兆円防衛予算はその1/2だった)   

ところが、50年後 一般会計予算は、14.4倍に増えたが

農水予算は、2.3倍2兆円 防衛予算18倍に膨らみ、年間10兆円を超えた

 

 

 

危機に脆弱な輸入依存 自由貿易論は破たん

日本の食料危機は今、クワトロショック といわれる状況にある。

・コロナ禍で物流途絶が現実味を帯び、中国の「爆買い」が勢いを増した。

・世界的需要が増すなかで、干ばつや洪水が頻発して、農産物の不作が続いている。

・昨年、ロシアとウクライナの戦争が勃発し、穀物、原油、化学肥料の価格が高騰

・インドのように生産力が大きな国の、輸出制限

 
自国民の食料確保の為に防衛的に輸出規制をする国は、今や30カ国に広がる
インドは7月にコメを禁輸して、穀物の国際価格は更に上昇している

 

・深刻なのは酪農・畜産のエサ(飼料)で、穀物が入らないので飼料価格は2倍近くに上昇した

もう一つが化学肥料。日本はその原料をほぼ100%輸入に依存するリン、カリウム、尿素など)

 

 

中国は、以前から輸出を抑制し、中国と並ぶ大生産国のロシアとベラルーシも輸出しなくなったので、

化学肥料の値段は、2020年の1.7倍になった。 【グラフ参照】

私たちは今後、化学肥料を使った慣行農業がいつまで続けられるかを、視野に入れなければならない。

 

中国の「爆買い」は、トウモロコシの輸入量だけ見ても 22年は1800万㌧と桁違いだ。

大豆は元々多いが、今や1億㌧輸入している。

日本も大豆の消費量の94%を輸入しているが、総量300万㌧ (中国の端数にもならない)

 

最近、大手商社の方のセミナーを聞いて驚いたが、

中国は今、アメリカとの関係悪化による紛争に備えて、備蓄を増やしている

中国の人口14億人が1年半食べられるだけの穀物を買い占めているから、値段が下がらない

日本の穀物備蓄能力は、1.5~2カ月 だ。

コンテナ船も大型化し、日本の港は小さくて着けられないから日本に荷を下ろさず、まず中国に運び、

そこで小分けして、日本に持って来るような情けない状態だ。

 

それでも日本政府は能天気で、この期に及んで「もっと貿易自由化を進め、調達先を増やせばよい

日本の農家がどんなに頑張ってもアメリカ産に比べたらコストが高いのだから輸入が基本だ」という

認識から抜けきれない。その貿易が止まり農家が倒れてしまえば、国内で食べる物はなくなる

国内の食料生産を維持して支えることが安全保障となる 

 

 

 

食料自給率は実質9% 崩れる食料安全保障

野菜の自給率は8割だが、その種は9割海外の圃場で種取りしたものだ

コロナ危機でも大騒ぎになったが、物流が停止すれば、野菜も8%しか自給できない。  

さらに肥料が止まれば、4%

たとえ種を自家採種してもF1(一代限りの雑種)だから、採取した種から同じ作物は作れないので

できるだけ地域の良い在来種固定種を守り、地域内で循環する仕組みを作っておく必要が有る

 

 

モンサントバイエルなど世界のグローバル種子農薬企業

世界中の種を自分の物にして、そこから買わなければ生産できないようにしようとしたが、

世界中の農家市民の猛反発を受けて、苦しくなった

 

苦しくなると「何でも言う事を聞く日本で儲けよう」となる。 

まず、種子法廃止でコメ・麦・大豆の都道府県の農業試験場で採種し保存する公共の種を止め

その知見を海外を含む民間企業へ譲渡せよという法律(農業競争力強化支援法8条4項)まで作った。

その上で、種苗法改定で、農家の自家採種まで制限した

 

「シャインマスカットの種が中国・韓国に盗られたから、日本の種を守れ」と一連の種の法律改定を

したが、結局 日本の種を巨大企業に渡すような流れを要請されてしまった。こういう事も考慮する

と、自給率は実質9%となる。 日本人は、いざという時に命を守るという点で、

どれだけ脆弱な「砂上の楼閣」に生きているのかを 自覚しなければいけない。

 

米ラトガース大学の研究グループが衝撃的な試算を出した。

局地的な核戦争が起きた場合、物流停止で世界で3億人近くの餓死者が出るが、

その3割が日本人(人口の6割、7200万人)というものだ。

 

 

 

セルフ兵糧攻めの日本 「コメ作るな、牛殺せ」

今こそ国内の農業生産を強化し、皆で支える事が急務であるはずだ。

しかし、コメの価格は「在庫が多い」という理由で、1俵9000円にまで下がり

生産コストは1俵1万5000円かかるために、大赤字

今年、少し持ち直しても、肥料価格は2倍、燃料5割高が続いて、赤字は膨らんでいる

こういう時に国が、自ら自給率をそぎ落とすような政策をやっている。

 

 

 

他の国は逆だ

コロナ危機で在庫が増えたのは、買いたくても買えない人が増えたからで、実際には足りてない。

米国・カナダ・EUでは、政府が穀物・乳製品を設定された最低限価格買い上げて
国内外の援助に回す仕組みを維持している

 

日本だけは、酪農では

需要が減り、脱脂粉乳在庫が余っている

ホルスタイン1頭処分すれば15万円払うから4万頭殺せ

そんな事をやれば、そのうち需給が逼迫して、足りなくなるのは当然だ

既にバターが足りないと言い始めている。 その時になって慌てても

牛の種付けをして牛乳が搾れるまで、少なくとも 3年はかかる

 2014年のバター不足で、国は増産を促し、農家は借金して増産に応じたのに

 今度は「余ったから作るな」では、その度に農家は右往左往し、疲弊して潰れていく。 

 反省もせず、いつまでこんな事を繰り返すのか。

 

日本が、国内在庫を援助物資に使わないのはなぜか? 

それは日本が援助物資をやるとアメリカの逆鱗に触れると分かっているからで、

アメリカの市場を奪うことになる)からだ。

政治行政の側は、国民の心配よりも、自分の地位や保身の心配ばかりの状況。 

 

 

 

9割の農家が赤字経営 他国では政府が買取

日本にあれこれと制限する米国だが、

米国は、「食料は武器」とみなし、重要な国家戦略として農業を保護している。 

 

例えば、農家がコメを1俵4000円で売っても、1万2000円との差額の100%を政府が補填する。 

農家への補填額は穀物3品目の輸出向け分だけでも1兆円規模になる年もある。

自国の農家を保護しながら増産を促し、その作物を日本に安く売る事で、

日本人の胃袋をコントロールすれば、軍事的な武器よりも安い武器になる と考えている。

 

更に、アメリカ農業予算の64%を消費者支援に使っている

低所得者向けのSNAP(定額の食料購入支援カード)を支給する為に、年間10兆円を使い。

消費者の購買力を高めて、需要(農産物の出口)を創出し、農家の販売価格も維持するやり方だ。

結果的に農家も助かるから、農業予算としている。

 

こんなシステムは日本にはない

財務省は、コメを作るなと言うだけでなく代わりに小麦、大豆、野菜、そば、エサ米、牧草など

作ることを支援する水田活用交付金の条件を厳しくして、事実上カット 

これでは、輸入依存をやめて国産を増産しなければいけない時に、何も作れない

それなのに「また一つ農業予算を減らせた」と喜んでいる。 

 

 

更に政府は今、コメ農家にコメが余っているから「水田を畑にしろ」といっている

田んぼを田んぼとして維持する事で、

食料危機から国民を守り、

治山治水で災害を防ぎ、

さまざまな文化も守られるのに

「手切金」を渡すから「畑にしてしまえ」というのは、短絡的な発想

 

 

現在、肥料も2倍、飼料も2倍、燃料も5割高というコスト高なのに、米価も乳価も野菜の価格

コスト高に応じて上昇しない。 (輸入小麦の値段の上昇でパンの値段は上昇しているのに)

 ↑ 農家が潰れたら、自分たちが食べる物が無くなるのだから、

これは消費者としても考えるべき事 

 

 

 

先日、NHKの『クローズアップ現代』に出演した。

そこでも、農家の5割が赤字価格転嫁できない農家が5割といわれたが、

調査対象は平均売上額が3・8億円のごく一部の大規模法人の数字だ。【円グラフ参照】

 

中小零細農家が多い日本全体を考えれば、赤字でも価格転嫁できない農家が殆どだ

北海道・千葉の酪農家による調査では、98%が赤字経営だった

さらに今夏は猛暑が襲い、乳牛が暑さにバテて乳量が2割前後も減っている。

他の作物も同様で、減産が追い打ちをかけている。

 

 

 

自給率向上を捨てる国 農業基本法の見直し

今、20年ぶりに農業の憲法である「農業基本法」を見直すといっている。 

ようやく国も、世界的な食料需給情勢の悪化を踏まえ、不測の事態にも国民の命を守れるように

国内生産への支援を強化し食料自給率を高める抜本策をうち出すのだろう と誰もが思ったが、

まったく逆だった。 

基本法の「中間取り纏め」では、食料自給率 の言葉すら出て来ない。 

「食料安全保障」を自給率の指標で議論は、

 守るべき国益に対して十分な目配りが出来ない可能性 があるとして、 

 5年毎の目標を決める「基本計画」の項目で「指標の一つ」に格下げした

 

その代わりに有事立法を作り、食料安保政策を「平時」と「有事」に分けて、

平時」には農家が潰れても輸入すれば良いから何もしない。 「有事」には国の命令で、

 花卉農家や 漁業者にもサツマイモを植えさせて、強制増産する という。

 

バカげた机上の空論であり、

今の農家を支えず有事になってから命令した所で 出来る訳がない

 

2020年の「基本計画」では、産地と食料供給を守る為には、巨大な1戸の経営を残すだけでなく、

“半農半X”(兼業農家)含む「多様な農業経営体」が互いに支え合う事必要! と確認した筈なのに、

今回はそれが消え巨大な企業経営だけを施策の対象とした

 

それ以外の 小規模な経営は要らないと言うことだ。  こうなると農村は消滅し、

東京一極集中が加速し、疫病禍などの災害に見舞われれば。物流停止と食料危機に陥る。 

コロナで学んだはずの教訓を、早くも否定している

 

戦後、米国の余剰農産物の処分場として食料自給率を下げる事を宿命づけられた我が国は、これまで

「基本計画」に基づき自給率目標を5年毎に定めても、実現の為の行程表も予算も付いた事が無い!

今回の基本法の見直しでは、

自給率低下を容認する事を、今まで以上に明確にしたと言える。

 

 

世界では農家が怒って暴動を起こし、欧州ではスーパーから食料品が消える事態にもなった。

農業国オランダでは、伝統的な農業モデルが崩れ、

農家と市民が怒って「農民市民党」を立ち上げて総選挙に打って出て、

連立与党の自由民主党を打ち負かして第一党となり政権交代を果たした

 

これくらい日本でもやらなければいけない

農家だけでなく国民全体もっと怒り

          与党にも、緊張感を与えるべきだ

 

 

 

有事に想定すべき餓死  ミサイルをかじるのか?

       パーラーで搾乳の準備をする酪農家(熊本県)

 

 

酪農家は、牛乳を1㌔搾るたびに、平均30円赤字 という。 

だからローンが返せなくなって、みずから命を絶たれる農家も出てきている。

もう限界をこえている

 

稲作も同じで、数年前と比べて米価は下がっているが、

肥料などのコストは上がり、10㌃当りの収支で手元に1銭も残らず、タダ働きだ。    

農水省の統計でも、農業経営体の94%以上赤字となっている。

 

 

そんな時に、国が力を入れているのが、

昆虫食(コオロギ)とミサイルだ。

コオロギは、日本人は昔から食べて来なかったし、中国でも食べない

避妊薬にもなるために、妊婦は食べてはいけないものだ

それを河野太郎大臣がテレビで試食して見せて、学校給食に出してみたり、パウダー

状で食品に混ぜていたり もする。

食料自給率の向上の論議を脇に置き、

中ロなどへの経済制裁強化敵基地攻撃能力強化の議論が、過熱している

こちらから攻めていくような勢い

5年間で43兆円の防衛予算を確保し、米国からトマホークを買うというが、

 

西側ブロックの先進国のなかで、

食料エネルギー自給できてないのは日本だけ

 

幾ら日本が勇ましい事を言っても、戦うことすらできない。(戦ってはいけないが)

逆に、日本自身が経済封鎖され、かつての戦争のような飢餓地獄に晒されるリスクが高い。

アメリカから40年前のトマホーク、墜落するオスプレイを押し付けられ、戦う前から食料もなく、

ミサイルとコオロギをかじって何日生き延びれるのかという話だ。

それでも「自給率はゼロでも、いざという時の“自給力”さえあればいい」という論議になっている。

有事になれば、校庭やゴルフ場にイモを植え、道路にも盛土をしてサツマイモを植えて、三食イモで

凌ぐというまさに戦時中の発想だ。

 

 さすがに『日経新聞』も怒って

食料安保の頼みの綱がイモでいいのか?という記事を出した。

 

要するに、自由貿易論は、

輸入が止められた時に、

命を守る安全保障のコストを考えてない、破綻した論理なのだ。

 

 
つづく