『開店日』ではなく『閉店日』を決め | 「売れる仕組みづくり」を伝えるコンサルタントのブログ

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[要旨]

経営コンサルタントの板坂裕治郎さんによれば、新たに事業を始めたときは、「月商が、3か月連続で、○○円以下になったとき」、「経営より金策に使う時間が多くなり始めたとき」などの、事業を撤退する基準を決めておくことが大切だそうです。なぜなら、早めに失敗を認め、撤退すれば、次の一手を打つ余裕が残るからということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの板坂裕治郎さんのご著書、「2000人の崖っぷち経営者を再生させた社長の鬼原則」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、板坂さんによれば、会社の開業当初は、社長のキャラクターで集客ができ、それで事業が成功したと感じることがありますが、社長の体は1つしかないため、体制を変えないまま事業を拡大してしまうと、開業当初の強みを活かすことができなくなり、事業活動が躓いてしまいかねないので、注意が必要ということについて説明しました。

これに続いて、板坂さんは、事業の撤退基準を前もって決めておくことが大切ということを述べておられます。「自分で商いを始めた人は、誰もが経験していることだが、カレンダーの開店日の日付に赤丸を付けて、『○月×日オープン』と定め、あれやこれやと準備しているときは、本当に楽しい。だが、私は、新たに商いを始める人には、必ず、『閉店日』を決めるようアドバイスしている。『これからオープンするというのに、不吉なことを言うな』と、感じる人もいるだろう。

開店日は決めているのに、閉店日を決めないでいるから、赤字になってもズルズルと引っ張り、傷口を広げることになる。(中略)(板坂さんご自身も)まさに、『閉店日』を決めていなかったことで、私が背負うことになる借金は6,000万円増えた。早めに失敗を認め、撤退すれば、次の一手を打つ余裕が残る。しかし、『まだいける、まだいける』と踏ん張り続けると、土俵から落ちた時には余力がなく、再起することもできなくなってしまう。だからこそ、開店日に、『こうなったら、この商いを辞める!』という条件=閉店日を決めておくのだ。

閉店日を定める条件は、『想い、お金、時間』を軸にするといい。『やっていても、楽しくなくなったとき』『想いを持って突っ走ることができなくなったとき』『万が一、月の売上が、3か月連続で○○○円以下になったとき』『資金不足でお客さんへのサービスにしわ寄せが出始めたとき』『スタッフが集まらなくなり、社長がどっぷり店に入らないといけなくなったとき』『経営より金策に使う時間が多くなり始めたとき』業態によって理由は変化するだろうが、ともかく、『こうなったら辞める!』というデッドラインを決めていこう」(115ページ)

よく、会社が倒産すると、経営者は夜逃げをするとか、すべての財産を失うなどといった、悲惨な状況を思い浮かべることが多いと思います。事実、そういうことは、多いと思います。しかし、私が銀行に勤務していたときに、倒産していった会社の状況を見てきた経験から感じることは、倒産した会社が悲惨な状況になってしまう原因の半分以上は、業況が傾き出してから、社長が「一か八か」の経営をしてしまうからだと感じています。

これを言ったら元も子もないのですが、本当は、業績が順調なときから、常に、業況の先行きに問題がないかどうかを確認しておかなければなりません。ただ、それをしていないとしても、先行きに変化が起きてきたときに、それに迅速に対処しなければならないことは、言うまでもありません。ところが、これは私自身にも当てはまるのですが、人は、不都合な事実には目を背けてしまいがちです。そして、経営環境の変化に合わせて事業も改善しなければならないのに、無意識のうちに、変化を嫌い、現状を維持しようとしてしまいます。

そして、そういった状態が続くと、業績はさらに悪化していき、取り返しのつかない状態になると、倒産してしまいます。本旨からそれますが、業績が悪化した会社の多くは、非合法な融資を利用します。それは、一発逆転を狙ってのことだと思いますが、それが実現することはほとんどなく、業績の悪化に拍車をかけるようなものです。そして、会社が倒産したときに、その状況をさらに悲惨なものにしてしまいます。とはいえ、人情として、事業の撤退を決断することは容易ではないことも理解できます。

でも、最後の最後までもがくよりも、余力の残っているうちに撤退して再起を図ることの方が賢明であることに、間違いはありません。板坂さんご自身も、撤退を決断しなかったために、多額の借金を残すことになってしまいました。もちろん、自分の事業を簡単に諦めたくないという気持ちも理解できますが、「自社の事業は絶対に成功する」と過信せず、「事業は必ずしもうまくいかないこともある」という前提に立って、撤退基準を決めておくことは、最終的に成功につながる近道だと、私は考えています。


2024/5/24 No.2718