相殺による融資の回収は有効な手段 | 「売れる仕組みづくり」を伝えるコンサルタントのブログ

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[要旨]

銀行は、民法で規定されている相殺によって、担保になっていない預金であっても、それで融資を回収することができます。ただし、相殺するには一定の要件があり、また、銀行が安易に相殺を行うことは権利の濫用となるため、いつでも相殺できるということではありません。それでも、銀行にとって、融資相手の会社の融資を預金で回収できることは、融資の回収手段として効果が高いと考えられています。


[本文]

前回は、銀行から融資を受けている会社が、その銀行に預けている預金を解約しようとしたとき、銀行からその解約金で融資を返済するよう要請されたときは、断ることができるのかどうかについて説明しました。これについては、法律上は応じる義務はないものの、預金を解約すると、その後、銀行からは、新たな融資を受けることができなくなるとお伝えしました。ここで、銀行は、融資相手の会社の預金を担保にしていない場合でも、その預金で融資金を回収することができるのかという疑問を持つ方もいると思います。

結論としては可能なのですが、これについて順を追って説明します。まず、一般的に、銀行が融資相手の会社から、融資を返済してもらえなくなれば、その会社の財産を処分して、返済にあてることができます。ただし、その会社の財産が、担保になっていると、その担保の権利のある銀行や債権者が、優先して自社の債権の返済にあてることができます。そして、担保となっている財産を処分して債権を回収し、その残余が出た場合は、他の債権者は、その残余を債権の返済にあてることができます。

このようなルールから見れば、預金を融資金の返済にあてることもできるということになります。しかし、銀行の預金の場合、「相殺権の行使」をすることができます。相殺は、民法第502条で、「二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる」と規定されています。簡単に言えば、預金と融資は同種の債務なので、銀行は、融資と相殺することで、預金を融資相手の会社に支払わなくてすむということです。

これは、銀行は、融資相手の預金に対して、相殺権を行使して、その会社の融資を回収できると言い換えることができます。ただし、銀行は、いつでも融資相手の預金で融資を回収できるのかというと、それについては制限があります。それは、民法第505条第1項で、「二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる」規定されています。

条文をそのまま読んだけでは分かりにくいですが、預金も、融資も、弁済期を経過していることが条件になっているということです。これは、預金の場合は満期が到来していること、融資の場合は返済期日が到来しているということです。ただし、預金については、銀行が満期まで預金を預かる権利を放棄すればよいので、問題になるのは、融資の期日です。もちろん、当初の融資契約の返済期日が到来した融資については、条件がそろっているので、相殺することができますが、実務的には、返済期日が到来していない融資を相殺したい場合はどうするのかということになります。

そこで、銀行は、返済期日が到来していない融資について、期限の利益を喪失させれば、その融資は相殺する条件を満たすことになります。(「期限の利益の喪失」については、こちらをご参照ください。→ https://goo.gl/GTqQ5M )しかし、銀行が、相殺をするために、安易に期限の利益を喪失させようとすることは、権利の濫用に該当すると考えられており、軽々にできることではないということを、銀行も理解しています。

ただ、会社の信用度合いが著しく低くなったときは、銀行にとって、相殺によって預金を回収することは有効な手段になることに間違いはありません。そこで、融資相手の会社の預金については、銀行は、担保ぬ準ずるものとして考えています。なお、銀行は、預金を担保として融資をすることがあります。この預金担保の担保権の行使と、預金と融資の相殺の違いに関する説明については、文字数の兼合いで割愛しますが、もし、説明を希望する方からご連絡をいただけた場合は、また、別の記事で説明を行いたいと思います。


2023/9/29 No.2480