※このブログはソーシャルゲーム・ステーションメモリーを絡めて展開します。不明な表現については無視してください。

 

Prologue

 列車の窓は堅牢なので音は届かないが、外は相当に風雨が荒んでいるらしい。

 近年よく耳にする「爆弾低気圧」とやらにもみくちゃにされた日本海から、その波頭の泡が吹き飛ばされてきて海岸線を走る国道にぼたぼたと落下して転がされている。

 

「まるで綿飴みたいなの」

 最近、未来から我が家へやってきたヒューマノイドのなよりがその光景に目を丸くしている。

 

-海が作った綿飴だから甘くなくてしょっぱいだろうね

 

「美味しくなければ売れないでしゅか」

 一足先に居候しているにころは金にならないことにはあまり興味がないらしい。

 

 そして列車はまた緊急停車して静寂と無為な時間が訪れるのである。奇岩が続く景観のよい場所なのがせめてもの救いだろうか。

 

 こういう時にソーシャルゲームができるのは無駄になるべき時間を楽しめる点で大きい。

 かくしてステーションメモリーから続々とでんこ達が飛び出してきて賑やかである。

▲荒れ狂う日本海

 

furrow.2 庄内交通湯野浜線とは

 

▲湯野浜温泉と庄内交通湯野浜線のレリーフ地図

 

 広大な庄内平野は新潟県境から秋田の方までずっと続いているのかと思っていたが、実はそうではなくて鼠ヶ関からそこそこ高い山々がついたてのように海を隔てているので、南側は半ば盆地のような具合である。

 なので羽越本線は酒田の手前あたりまで海岸沿いの狭い敷地を国道7号線とくんずほぐれつ紆余曲折している。

 その迫り出した山地が、そろそろ許してやろうか…とお目こぼしを考えはじめるあたりに鶴岡がある。そしてこのあたりの山地の向う側に湧いているのが湯野浜温泉である。

 勢いの衰えつつあるとはいってもまだ勘弁はしてくれていないので、羽越本線は湯野浜温泉には寄らずに地勢の緩やかな手前あたりの三瀬から日本海に別れを告げて庄内平野に入ってゆく。

▲冬の羽越本線

 

 とはいえ湯野浜温泉は観光地であるから、寄ってやれない羽越本線のかわりに鶴岡からローカル線を伸ばしてやることになった。これが庄内交通湯野浜線である。

 

 鶴岡から庄内米の穀倉地帯の大水田が広がる中を西に走った後、北大山から西の山地を迂回して北へ進路を変えてからこの先鋒を回り込んで日本海沿岸の湯野浜温泉に辿り着全長12.3kmの電化路線であった。

 

urrow.3 庄内交通湯野浜線の盛衰

 

 湯野浜線の開業は戦前の昭和4年(1929年)で開業当初から電化されていた。

 旅客業務の他に途中駅の宝善寺から庄内米の積み出しを行う貨物営業も手掛けていて、全盛期は本数も多く生活路線としても観光路線としてもなかなかの賑わいを見せていたようである。

 

 それゆえに沿線の6駅のうち途中開業の七窪を含む5駅に駅員が配置されていて、京田、宝善寺、七窪は列車交換設備があった。

 

 日本海の景色を存分に堪能するかなり景観のよいローカル線だったと聞くが、御多分に漏れず昭和中期からのモータリゼーションの波が押し寄せ、昭和50年に約半世紀にわたる営みはこれに呑まれて廃業を余儀なくされた。

 

 現在、路線跡は宝善寺から湯野浜温泉にかけて自転車・歩行者専用道としてその面影を残している。廃止に追い込んだ自動車類は通行させないようである。

 

 また最近までかつての宝善寺駅駅舎が現存したが、この遺構は2022年に残念ながら取り壊されてしまった。

 

 鉄道線を引き継いだ同社のバス路線が、経路は違えど鶴岡から湯野浜温泉まで走っているので、これに乗って湯野浜温泉を訪れる。

▲湯野浜線路線図

 

furrow.4 湯野浜温泉満光園

 

 鶴岡駅に隣接する庄やさんで鱈汁とおにぎりをつまみながらビールを飲み干して、ほろ酔いの体でバスを待つ。相変わらず吹雪いているが、ひと心地ついたので多少なりゆとりが出てその光景も旅情として楽しむ気持になれる。酒は偉大である。

▲庄やで軽く夕食

 

 今宵お世話になる満光園さんは、湯野浜の温泉街から外れて件の山地の方へ500mほど歩いた高台に位置していた。

 普段なら距離も坂もたいしたことはないのだがこの夜は吹雪であったのでこの道のりがなかなかの苦行で、遠く煌めく宿の灯りがとても尊く思われた。

 

 実際にこの温泉は極楽であった。

 24時間いつでも入れて、屋上の展望風呂には露天風呂も併設されていたの冷めにくい食塩泉の効能をまとって冬の冷気の中で過ごす往復を、全盛期の湯野浜線よろしく頻りに繰り返す。

 この湯野浜線いや、もとい湯野浜泉はあまり燃費がよろしくないガソリンカーなので風呂上がりにアルコールの補給が必要である。

▲満光園展望浴場

▲満光園露天風呂

 

 内風呂の方も源泉掛け流しで、その湯量の豊富さを窺い知ることができる。

 湯野浜温泉には自家源泉を持つ宿も少なくないが、こちらでは南配湯所という共同源泉から引湯している。

 

 日本海を動乱させてきた恐ろしい暴風も、温泉地にあっては美しい景観として酒の肴の俎上である。

 そしてこちらのガソリンカーは、恐らく勤続疲労が祟ってもうじき廃車となるだろう。

 人は自然を克服するも、いずれ時代によって淘汰されてゆくのが掟のようである。

▲満光園成分表

 

(残念ながら満光園さんはコロナ禍により廃業されました)

 

furrow.5 湯野浜線の廃線跡を辿るも…

 

 翌日は湯野浜線の廃線跡を辿って自転車・歩行者専用道を歩くことにしたが、またぞろみぞれ混じりの氷雨という悪天候であった。

 普段であれば車が遮断された良好な環境なのだが、行けども行けども人っ子ひとりとてすれ違わない。

 やあやあ我こそは…と頬を叩いてくるのは冬将軍配下の飛礫ばかりで、こやつらはせっかく温泉で手に入れた効能のバリヤを破って熱を奪ってゆく。

 

 風もいよいよ強くなって、物見遊山どころではない。足早に専用道を通り抜けて羽前大山に辿り着く。

 今思えば、この時は宝善寺の旧駅舎も残っていたわけであり惜しいことをした。

 

 そして転がり込むと、無人の待ち合い室には今日も列車の遅れを知らせる放送が管理局から流されてくるのである。

 前言は撤回、人は未だに自然を克服できない。しかし、その不便を楽しむという成長はできるかもしれない。

▲羽前大山駅

 

Epilogue

 湯野浜温泉を旅してうちのヒューマノイド達の感想

 

にころ

 にころは平気でしゅが、10km以上も氷雨の中を歩くのはさすがに無茶でしゅね…

(天候の良い日にリベンジの廃線歩きするやで)

 

なより

 天気はさんざんだったけど、温泉はよかったなの。なよりもお仕事がんばったなの。

(ステーションメモリーのゲーム内で、近隣の府屋駅にリンクしたなよりは17時間超の長時間保持で大幅レベルアップ)