「ちっ……」

 

メインマストの見張り台で銃を手にしたシンが、狙いを定めた直後に舌打ちした。

 

この角度から敵を撃つと、甲板にいる仲間を巻き添えにしかねない。

 

いや、大抵の仲間は、簡単に弾を察して避けるだろうと知っている。

 

だが、見習いのトワには、まだ無理だ。

 

おまけに、襲撃があったら真っ先に隠れるように何度も言っている恋人が、また隠れもせず、シンが撃とうとした敵の向こうでデッキブラシを持って応戦しようとしているのだ。

 

「バカが…」

 

これでは、危なっかし過ぎて、とても撃つ気になれない。

 

ふと、甲板で戦っていたナギが、前方のフォアマストの帆桁に鎖の反動を利用して飛び上がり、降り立つ姿が見えた。使える、と判断したのは一瞬。

 

「ナギっ」

 

呼ぶと同時に、シンの足はそれまで立っていた見張り台の手すりを蹴っていた。

 

風を孕んだシンのコートが帆のように広がる。

 

手にした銃から出た弾は、正確に敵の腕を貫いた。

 

その直後に、カン、と音が響く。

 

敵の腕を貫通して流れた銃弾が船を傷つける前に、リュウガが剣で海へ弾き落とした音だった。

 

落下するシンの右手にナギの鎖が巻きつき、振り子のようにその身体を帆桁へ引き上げる。

 

「…おい、アレ、なんとかしろ」

 

厳しい表情のナギに、不機嫌そうなシンが頷く。

 

「…ああ…判ってる」

 

返事をしながら再びシンが銃を撃つと、デッキブラシを手にした恋人に近づこうとした敵が倒れる。

「…ったく。あのバカが…」

 

帆桁のフートロープを使って素早く甲板に降り立ったシンが、デッキブラシで応戦中の恋人の腰を捕え、引きずるように船室へ向かう。

 

「えぇっ、ちょ、シンさんっ」

 

「邪魔だ」

 

有無を言わせぬ一言。同時に、連続するシンの銃声。

 

自分のせいでシンが攻撃できなかったのだと理解した恋人は、大人しく船室へ避難した。