「おい、シン、航路の計算まだか? 早くしろ。日が暮れちまう」

ノックも無しで航海室へやってきたリュウガ船長に、シンさんは冷たい視線を向けた。

「まだです。海流の複雑な海域を突っ切らなければ、もっと早く計算できますが」

「んな回り道したら、別の客に獲られちまうだろうが」

船長の言葉に、シンさんは呆れたような表情で計算を続ける。

「相手は娼婦でしょう? 今夜ダメなら明日にすればいい」

「ただの女じゃねーんだよっ。最高のキステクニックと評判の美人だぞ。それに俺は、今夜、抱きてぇんだ。シンも男ならそのへんは判るだろうが?」

???私にはゼンゼンわからないんだけど……。
とにかく、船長は、キスが上手だという港の女の人に、どうしても今夜逢いたいってことなんだよね???

「たかがそんなことのために、航路を変更するとは…」

シンさんは、相変わらず呆れた口調だ。

「ったく、可愛気ねぇな。んなコト言ってると、お前の女を借りちまうぞ」

冗談とも本気ともつかないことを、シンさんの手元をのぞき込み、笑いながら言う船長。

船長がチラリと横目で私を見た。

な、なんだろ…。
よくわからないけど、今、なんか背筋が…。
冗談…だよね?

と、シンさんが計算の手を止めて、覗き込んでいた船長の頭を片手で抱え込んだ。
 

 

 

「借りる? 俺のものに手を出したら、噛み切りますよ」

え? え? シ、シンさん…っ。
せ、船長と今にもキスしそうな……。
えーっ?

船長は、面白そうに笑い出す。

「ははは。……怖ぇな。ずいぶんと魅惑的な脅しだ」

「ふん。キスなら、その辺の娼婦なんかより俺の方が数倍上手い」

な、なんか…怖い…。
シンさん、船長を誘っているようにも見えるんだけど、空気がピリピリしているというか、すごい、怒っている。

船長が、苦笑しながら、シンさんの手から逃げるように離れた。

「よせや。いくらシンが美人でも、野郎とキスする趣味はねぇ。それに、うっかり触れたら、確実に噛み千切る気満々じゃねーか」

船長が離れると、シンさんは何事もなかったようにまた計算を始めた。

い、今のって……。
今の…は…。
な、なんだったんだろ……。