カウンセラー鷲木先生、久しぶりに描いたらソウシっぽい(苦笑)

「スクールカウンセラー鷲木先生の相談簿」より
(これは、かつて木江がどこぞで細々と運営していたオリジナル小説サイトの作品です。え、そのサイトですか? もうないかな…笑)
《第四話、章吾》
鮮やかな紺色の髪に、着崩した制服。片耳にピアス。
昼間近に相談室を訪れた少年は、どこかの芸能雑誌やファッション雑誌で見る事ができそうな雰囲気だった。
「いらっしゃい」
のんきな鷲木の声に、明らかに校則違反の風体をした少年は、無言で立っている。
意思のはっきりした眼差しで、鷲木を見た。
「しかし、似合うなぁ。その髪といい、制服の着方といい、アクセサリーといい、そのへんの中途半端な不良なんか足元にも及ばないね。ぴったりだよ。嫌な感じひとつなく、似合っている………」
なんとなく見覚えのある顔立ちに、鷲木は記憶と名前を照合する。
「どういう心境の変化だい? ……章吾くん」
少年が、驚いたような顔をして、ようやく鷲木に応じた。
「…わかりましたか? ここへ来るまでは、ばれなかったんですけど」
「ばれなかったというよりも、この時間だとここへ来る途中、誰にも会わなかったんじゃないか?」
鷲木のことばに、章吾は「ええ、まぁ」と頷いて荷物を置いた。
いわゆる芸能人のような格好の上、一つ一つの動作が、しっかりした印象を与えるせいか、やけに動きが「きまっている」ように見える。
今の章吾を見たら、黄色い声をあげる女の子がいそうである。
章吾は、風紀委員長。学校内で校則違反を取り締まる立場にあるはずの生徒だった。
「あ、記念撮影、御願いしていいですか?」
取り出したインスタントカメラに、鷲木は苦笑した。
「随分と用意周到だね?」
「計画的犯行ですから。病院へ行って遅刻する機会をねらって。一度、試してみようと思っていたんです」
「試す?」
鷲木はファインダーごしに章吾を見て、シャッターを切った。
「自分のほうが、あいつらよりもこーいう格好、似合うと思って。あ、どうも、ありがとうございました」
「まって、1枚だけじゃもったいない。何枚か撮らしてくれよ。なんだかカメラマンになった気分だ」
男の鷲木から見ても、こいつは格好良い、と思える。
これなら、校則違反でも許されてしまうのではないかと、感じる。
いろいろなアングルで撮る鷲木に、章吾は照れたように言った。
「せっかくですけど、卒業するまで、ソレ、現像しませんよ」
「へぇ。なら、卒業して現像したら焼き回しして1枚ずつ僕に届けてくださいね。本当、その格好、似合っていてカッコイイ。最高だと思うよ」
10枚ほど撮り、満足した鷲木は笑って、章吾にカメラを返す。
会釈をして受け取った章吾は、荷物からタオルを取り出した。
「水道借ります…」
鷲木の部屋には、一通り生活できる設備が整っている。水道で洗われた髪は、黒く本来の色を取り戻していく。
「水性? ああ、それにしても、もったいないっ。いっそのこと、そのままの格好でいても…」
「ムリですよ。自分、風紀委員長ですよ。もう、気がすんだから、金輪際、この手の格好はしないと思います」
タオルで髪をふきながら、章吾はやけにさっぱりとした表情で言い切った。
章吾に対する、真面目で意思の強い生徒、という風評は間違ってはいない。更に付け加えるなら、責任感が強く、我慢強い。
「家族も驚いたんじゃないか?」
制服を着直し始めた章吾は、手を止めてまっすぐ鷲木を見て答えた。
「……家族は何も知りませんよ。うちの親、きっと知ったら卒倒するんじゃないかな。言っておきますが、単独の計画的犯行です。以前、かなりキレそうになったことがあって、それがきっかけですね」
言葉以外の言葉が伝わる。章吾の願いは「この件に関して他言無用」だと。
「わかってるよ」
みるみるうちに、風紀委員長に戻っていく章吾を、鷲木は黙って眺めた。
集団の中で、自分の立場や役割を理解して責任を持つことは、大切だろう。集団の規律を崩さないために、自分勝手な行動を我慢することも大切だろう。
集団の中には、過度の我慢を強いられ、過度の努力を強要される場合もある。
章吾は、様々な面で抑圧と強制の中にいる。それこそ、家でも学校でも。
「…章吾くん、ピアスがついたままだよ」
服装を整えた風紀委員長が、耳を飾っていたアクセサリーを思い出したように、外した。
「あ、どうもありがとうございます。コレ、磁石ですよ。穴開けるわけにいかなかったから」
「高かったんじゃないかい?」
「そうでもないですよ」
曖昧に答えた章吾は、校則違反にあたるものを全て、一つのバッグの中へしまい込んだ。
「放課後、取りに来ますので、この荷物預かっていただけますか?」
きちんと制服を着た礼儀正しい、風紀委員長の言葉。
「かまわないよ。せっかく来たんだから、この授業時間が終わるまで、お茶でも飲んでもらおう」
鷲木は、すっきりした表情で頭を下げた章吾を見下ろして、微笑んだ。
章吾は言葉通り、もう二度とあのような格好はしないだろう。時には、秘密を持つことが、よい場合もある。
差し出されたほうじ茶を受け取った章吾に、鷲木は一言告げる。
「安心したよ」
真面目で責任感が強いことは、悪いことではない。けれど、時にそれは、自分をひどく追い詰めて傷ついてしまう原因になることもある。
まして、我慢強いと、少々の傷は内に秘めて耐えてしまう。
それはとても不器用な生き方につながる時も多い。
生きていく中で、何らかの形で、鬱積を晴らす術を知っていることは、重要だ。
真面目で誠実なだけでは、とても生きてゆけない現代。
必要なときに、規範からはみ出すことができるかできないかは、世の中を生きてゆく力。
まだ鷲木の言葉の意図を十分に理解できなかった章吾は、黙って受け取ったほうじ茶をゆっくり飲むと、しばらく他愛の無い会話を交わして、去っていった。
特に問題があったわけでもない。
特に意味があったわけでもない。
それでも、なんとなくいい気分になれる時間が、相談室にも時折訪れる。
「…もったいなかったよなぁ。あいつ、その気になれば絶対に生活に困らないモトを持っているな……よりによって、風紀委員長…か」
急須を棚にしまいながら、鷲木は楽しげに笑った。

「スクールカウンセラー鷲木先生の相談簿」より
(これは、かつて木江がどこぞで細々と運営していたオリジナル小説サイトの作品です。え、そのサイトですか? もうないかな…笑)
《第四話、章吾》
鮮やかな紺色の髪に、着崩した制服。片耳にピアス。
昼間近に相談室を訪れた少年は、どこかの芸能雑誌やファッション雑誌で見る事ができそうな雰囲気だった。
「いらっしゃい」
のんきな鷲木の声に、明らかに校則違反の風体をした少年は、無言で立っている。
意思のはっきりした眼差しで、鷲木を見た。
「しかし、似合うなぁ。その髪といい、制服の着方といい、アクセサリーといい、そのへんの中途半端な不良なんか足元にも及ばないね。ぴったりだよ。嫌な感じひとつなく、似合っている………」
なんとなく見覚えのある顔立ちに、鷲木は記憶と名前を照合する。
「どういう心境の変化だい? ……章吾くん」
少年が、驚いたような顔をして、ようやく鷲木に応じた。
「…わかりましたか? ここへ来るまでは、ばれなかったんですけど」
「ばれなかったというよりも、この時間だとここへ来る途中、誰にも会わなかったんじゃないか?」
鷲木のことばに、章吾は「ええ、まぁ」と頷いて荷物を置いた。
いわゆる芸能人のような格好の上、一つ一つの動作が、しっかりした印象を与えるせいか、やけに動きが「きまっている」ように見える。
今の章吾を見たら、黄色い声をあげる女の子がいそうである。
章吾は、風紀委員長。学校内で校則違反を取り締まる立場にあるはずの生徒だった。
「あ、記念撮影、御願いしていいですか?」
取り出したインスタントカメラに、鷲木は苦笑した。
「随分と用意周到だね?」
「計画的犯行ですから。病院へ行って遅刻する機会をねらって。一度、試してみようと思っていたんです」
「試す?」
鷲木はファインダーごしに章吾を見て、シャッターを切った。
「自分のほうが、あいつらよりもこーいう格好、似合うと思って。あ、どうも、ありがとうございました」
「まって、1枚だけじゃもったいない。何枚か撮らしてくれよ。なんだかカメラマンになった気分だ」
男の鷲木から見ても、こいつは格好良い、と思える。
これなら、校則違反でも許されてしまうのではないかと、感じる。
いろいろなアングルで撮る鷲木に、章吾は照れたように言った。
「せっかくですけど、卒業するまで、ソレ、現像しませんよ」
「へぇ。なら、卒業して現像したら焼き回しして1枚ずつ僕に届けてくださいね。本当、その格好、似合っていてカッコイイ。最高だと思うよ」
10枚ほど撮り、満足した鷲木は笑って、章吾にカメラを返す。
会釈をして受け取った章吾は、荷物からタオルを取り出した。
「水道借ります…」
鷲木の部屋には、一通り生活できる設備が整っている。水道で洗われた髪は、黒く本来の色を取り戻していく。
「水性? ああ、それにしても、もったいないっ。いっそのこと、そのままの格好でいても…」
「ムリですよ。自分、風紀委員長ですよ。もう、気がすんだから、金輪際、この手の格好はしないと思います」
タオルで髪をふきながら、章吾はやけにさっぱりとした表情で言い切った。
章吾に対する、真面目で意思の強い生徒、という風評は間違ってはいない。更に付け加えるなら、責任感が強く、我慢強い。
「家族も驚いたんじゃないか?」
制服を着直し始めた章吾は、手を止めてまっすぐ鷲木を見て答えた。
「……家族は何も知りませんよ。うちの親、きっと知ったら卒倒するんじゃないかな。言っておきますが、単独の計画的犯行です。以前、かなりキレそうになったことがあって、それがきっかけですね」
言葉以外の言葉が伝わる。章吾の願いは「この件に関して他言無用」だと。
「わかってるよ」
みるみるうちに、風紀委員長に戻っていく章吾を、鷲木は黙って眺めた。
集団の中で、自分の立場や役割を理解して責任を持つことは、大切だろう。集団の規律を崩さないために、自分勝手な行動を我慢することも大切だろう。
集団の中には、過度の我慢を強いられ、過度の努力を強要される場合もある。
章吾は、様々な面で抑圧と強制の中にいる。それこそ、家でも学校でも。
「…章吾くん、ピアスがついたままだよ」
服装を整えた風紀委員長が、耳を飾っていたアクセサリーを思い出したように、外した。
「あ、どうもありがとうございます。コレ、磁石ですよ。穴開けるわけにいかなかったから」
「高かったんじゃないかい?」
「そうでもないですよ」
曖昧に答えた章吾は、校則違反にあたるものを全て、一つのバッグの中へしまい込んだ。
「放課後、取りに来ますので、この荷物預かっていただけますか?」
きちんと制服を着た礼儀正しい、風紀委員長の言葉。
「かまわないよ。せっかく来たんだから、この授業時間が終わるまで、お茶でも飲んでもらおう」
鷲木は、すっきりした表情で頭を下げた章吾を見下ろして、微笑んだ。
章吾は言葉通り、もう二度とあのような格好はしないだろう。時には、秘密を持つことが、よい場合もある。
差し出されたほうじ茶を受け取った章吾に、鷲木は一言告げる。
「安心したよ」
真面目で責任感が強いことは、悪いことではない。けれど、時にそれは、自分をひどく追い詰めて傷ついてしまう原因になることもある。
まして、我慢強いと、少々の傷は内に秘めて耐えてしまう。
それはとても不器用な生き方につながる時も多い。
生きていく中で、何らかの形で、鬱積を晴らす術を知っていることは、重要だ。
真面目で誠実なだけでは、とても生きてゆけない現代。
必要なときに、規範からはみ出すことができるかできないかは、世の中を生きてゆく力。
まだ鷲木の言葉の意図を十分に理解できなかった章吾は、黙って受け取ったほうじ茶をゆっくり飲むと、しばらく他愛の無い会話を交わして、去っていった。
特に問題があったわけでもない。
特に意味があったわけでもない。
それでも、なんとなくいい気分になれる時間が、相談室にも時折訪れる。
「…もったいなかったよなぁ。あいつ、その気になれば絶対に生活に困らないモトを持っているな……よりによって、風紀委員長…か」
急須を棚にしまいながら、鷲木は楽しげに笑った。