HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン | キッズクリニック ブログ

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小児科学、特に小児心臓病学を専門に大学教授としての経験を積んだ後、名誉教授になってから、自分の教え子の小児科診療所で子どもを診ています。
こどものことを中心にいろいろ書いていこうと思っていますので、よろしければお付き合いください。

【一口知識】ヒトパピローマウイルス(HPV:Human Papiloma Virus) は、すぐに症状はでませんが、治す薬のない『性病』です。子宮頸がんの多くはHPVウイルス感染が原因で発生します。HPVワクチンはセクシャルデビュー(性交渉)の前に打っておく必要があります。

 

子宮頸がんの発生にはヒトパピローマウイルス(HPV:Human Papiloma Virus) が関係することがわかっています。子宮頸がんの患者さんの90%以上にHPVが見つかることから、感染が長期化するとがんになると考えられています。このHPVウイルスは性交渉で感染します。感染した男性からうつされるのですが、男性にはあきらかな症状がないことが多いので、感染しているという認識のない男性が多いです。(口や手を介しても感染します)

HPVウイルスに感染しても、9割の方ではウイルスは2年以内に自然排出されてしまうと言われています。自然排出されずに、数年から数十年の間持続的に感染すると、がんになる事があるとされています。子宮頸がん以外にも、中咽頭がん、肛門がん、膣がん、陰茎がんなどの発生にも関わっているようです。

子宮頸がんの初期症状には、はっきりしたものはありません。最初はほとんど何も症状がなく、ときどき出血、おりものの増加があるくらいですが、進行すると足腰の痛みや血尿が見られることもあると言われています。また、感染しても全ての人に症状が出るわけではありません。

我が国で子宮頸がんの患者さんの数は、年間11,000人(2017年)と報告され、亡くなる方の数は、年間2,800人(2018年)とされています。社会にとって問題なのは、年代別では若い年齢層(20〜39歳)が多い、つまり、子供を授かり子育てする世代が多いことです。(注1)

このHPVウイルス感染の治療法はありません。かかってしまう前に、予防する事が大切です。これは、B型肝炎と同じですね。

HPVワクチン接種後の副反応が話題になり、「積極的な勧奨の差し控え」とされて積極的に勧められなくなったことがあるのをご記憶でしょうか?現在はこの副反応は痛みによる「機能性身体症状」と言われるものであることがわかっています。つまり、このワクチンによる症状というより、「痛み」に対する反応の一つと考えられています。したがって、現在は注意して打っている限り問題ないとされています。

定期接種として3回打つワクチンは、原則として小学6年生〜高校1年生までであり、公費負担になるので無料です。(多くの自治体では高校1年生の9月までに初回接種すればよい)しかし、公費負担でなく、自費で打つと1回1万5千円以上かかるので、3回だと5万円ちかくになります。かなり大きな負担ですから、公費負担できるうちに打つことをお勧めします。

HPVワクチン定期接種の基本スケジュールは、初回、2ヶ月後、6ヶ月後であり、原則的には小学6年〜高校1年の3月までに打つことになります。全3回を高校1年生の3月までに打ち終えれば良いわけです。

新型コロナウイルスワクチンやインフルエンザワクチンなど、他のワクチン接種とは2週間以上あけて打つことが勧められています。これは、副作用が出た場合に、どちらが原因かわからなくなるからこのようにしているので、同時に打つ事が医学的に危険なわけではありません。

保健所などから接種のお知らせが来ていなくても接種は可能です。市区町村の保健所や予防接種担当課に問い合わせて、希望すれば予防接種券(予診票は)送ってもらえるはずです。(各家庭に通知している自治体と、していない自治体があります)

16歳までに定期接種に使われるガーダシル(4価ワクチンの商品名)を接種しておくと、子宮頸ガンを88%も予防できるとされています。現在定期接種とされていない9価ワクチンは将来接種することにしてもよいので、とりあえず無料のうちに打っておくことを強くお勧めします(注2)

また、HPVウイルスを運んでうつすのは男性なので、男性にもワクチンを打った方が感染症対策として役立ちます。HPVワクチンの一つのガーダシルは、2020年12月から任意接種(有料)で男子も受けられるようになりました。

注1: 【参照】HPVワクチンQ&A|厚生労働省

注2:ヒトパピローマウイルス(HPV)は多くの種類に分類されます。そのうちいくつの種類に効果があるかということを「価」という言葉で表します。4価というのはHPVのなかの4種類に対して効果があるという意味です。我が国では、2価ワクチンのサーバリックス、4価のガーダシル、9価のシルガード9(任意接種用)が使われています。


キッズクリニック 院長 柳川 幸重