水痘(すいとう=みずぼうそう)と帯状疱疹(たいじょうほうしん)【2】 | キッズクリニック ブログ

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小児科学、特に小児心臓病学を専門に大学教授としての経験を積んだ後、名誉教授になってから、自分の教え子の小児科診療所で子どもを診ています。
こどものことを中心にいろいろ書いていこうと思っていますので、よろしければお付き合いください。

【一口知識】これからは、帯状疱疹の患者さんは増えてくる可能性が高いです。

 

前回、水痘(みずぼうそう)の詳しいお話をしました。その中で、水痘罹患後は、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV;Varicella -zoster Virus)は、背骨(脊椎骨)の中の脊髄後根神経節に住みついてしまう(潜伏する)とお話しました。

脊髄後根神経節からは、左右対称に神経が出ています。ちょうど、胸部の肋骨のように脊椎からクシの刃のように左右対称に出ていると考えてください。肋骨のない体の部分でも、左右対称に神経が出ています。顔では、三叉神経というものが出ています。これも左右対称に出ています。

帯状疱疹はこの神経にそって出現します。したがって、必ず、体の左右どちらかに出て、体の真ん中(正中線)を超えて広がることはありえません。体のどこに出るかは、どこの神経節にウイルスが潜伏していたかによります。あらかじめ知ることはできません。

帯状疱疹(たいじょうほうしん)の症状としては、上に述べたように脊髄後根神経節から出る神経に沿って(胸部ですと肋骨に沿って)刺すような鋭い痛みが出てきます。とても強い痛みです。その後、同じ場所に、赤い発疹や水膨れが帯状に出てきます。皮膚症状が消えると痛みも消えることが多いですが、痛みだけが続くこともあります。(帯状疱疹後神経痛(PHN)と呼ばれます)顔面(目や耳)にも症状の出ることがあり、目の症状のために視力低下、失明なども起こることがあります。また、顔面神経麻痺、耳鳴り、難聴なども起こることがあります。

このように、脊髄後根神経節に潜伏している水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が何らかの原因で再活性化したときに帯状疱疹の症状が起こるわけです。この活性化は、からだの免疫機能が低下して、水痘抗体価が低下した時に起こります。加齢とともに免疫機能は低下していきますから、お年寄りほど帯状疱疹の症状が出やすくなるわけです。現在は80歳までに、約三人に一人に帯状疱疹が出ると言われています。

このウイルスの再活性化を抑える一番の方法は、水痘・帯状疱疹ウイルス抗体価をつねに高く保つことです。これにより、神経節に住んでいるウイルスは抑えられるわけです。

昔から、保育士や小児科医には帯状疱疹が起きにくいと言われてきました。これは、この職業の人は水痘にかかっている人(主に子ども)との接触が多いために、ブースター効果(ウイルスとの接触で刺激されて抗体価が高くなること)を受けやすくて、抗体価が高くなっているからだろうと説明されています。

ワクチンの普及は素晴らしいことですが、これによってブースター効果が減りますから、小児科医・保育士を含めて全ての人で水痘抗体価が低くなることになります。このため今後は全ての人にとって帯状疱疹を発症する確率が高くなる可能性があります。これを防ぐには、水痘抗体価を増やすためにはワクチン投与が考えられます。これについては、後で述べましょう。

もう一つ記憶しておかなければいけないことは、帯状疱疹にかかっている間は水痘・帯状疱疹ウイルスを体から外に出しているということです。つまり、帯状疱疹の患者さんは、水痘の免疫のない人には水痘をうつしてしまうということです。具体的には、ご自分のお孫さんでまだ水痘ワクチンを受けていない赤ちゃんや、ワクチン定期接種を受けられていない学童との接触で水痘をうつしてしまうということです。これには、充分な注意が必要です。

ただし、帯状疱疹そのものはうつりません。帯状疱疹はあくまでも、ご自分の脊髄後根神経節に潜んでいるウイルスの再活性化で起こるものだからです。

この帯状疱疹を確実に予防するには、水痘ワクチン投与が有効です。基本的には子供に投与する水痘ワクチンでも良いのですが、帯状疱疹予防のワクチンとして使われている不活化ワクチンもあります。(シングリックスという商品名)

米国では、60歳以上に帯状疱疹ワクチンの接種を勧めています。日本でも、希望者には打てるようになりつつあります。

水痘患者への薬として、抗ヘルペスウイルス薬が効果的であると前回述べましたが、帯状疱疹に対しても、同じような薬が効果的であることがわかってきています。早めに診断してもらって、早めに使用開始することが、後遺症としての帯状疱疹後神経痛(PHN)を起こしにくくするのに有効でしょう。それでもやはり、医師としては予防のためにワクチンを打つことを勧めます


キッズクリニック 院長 柳川 幸重