手足口病(てあしくちびょう) | キッズクリニック ブログ

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小児科学、特に小児心臓病学を専門に大学教授としての経験を積んだ後、名誉教授になってから、自分の教え子の小児科診療所で子どもを診ています。
こどものことを中心にいろいろ書いていこうと思っていますので、よろしければお付き合いください。

【一口知識】手足(とくに手のひらと足のうら)に水疱性の発疹が出て、口腔内粘膜に潰瘍のできる病気です。治癒した後でも4週間くらいは便にウイルスが出ているので、お友達にうつさないように注意することが大切です。

 

手足口病とは、英語で “hand, foot, mouth disease:HFMD” と言われるのをそのまま日本語にした病名です。手足に水疱のような発疹、口腔内粘膜に潰瘍ができるウイルス感染症で、診断名通りの症状なので保護者の方にも覚えやすい病名です。

感染者の9割が5歳以下であり、これからの季節、夏に流行しやすい疾患です。原因となるウイルスはコクサッキーA群ウイルス、エンテロウイルス71型であり、一つのウイルスではないので、一回かかっていても、別のウイルスの流行があると、再びかかることもあります

感染経路は、飛沫感染、接触感染(感染者の舐めたものを舐めたり、手を触れたりする)、糞口感染(便中のウイルスが口に入る)なので、乳幼児が集団生活をしている保育所、幼稚園で流行りやすいわけです。

感染してから3〜5日後に、手(とくに手のひら)足(とくに足のうら)に直径2〜3mmの水疱性発疹が出てきます。ほとんど痛みはないようですが、足底にできると歩く時に少し痛いようです。口腔粘膜には痛い潰瘍ができます。三分の一の患者さんには軽度の発熱がみられます。この症状だけで、数日で治癒することがほとんどですが、まれに、中枢神経系の合併症などを起こすことがあります。

成人はこれらのウイルスに対する抗体をすでに持っていることが多いようで、子どもから保護者にうつることはあまりありません。

私個人の経験としては、お母様にうつってしまい、「足底の水疱が痛くて普通に歩けないので、家ではこどもと二人ではって動いています!」と報告されたことがあります。

口腔内の潰瘍があると痛いので、食事が困難になります。脱水を避けるために、冷たいものを少しずつあたえることが勧められます。栄養としては、噛まずに飲み込めるものがよいでしょう。ゼリーやプリン、冷めたおじや、豆腐なども試してみると良いですね。

稀ですが、重症化して髄膜炎、小脳失調症、脳炎などの中枢神経の合併症を起こしたり、心筋炎を起こすこともあるので、経過をみることはとても大切です。1997年の東南アジア(マレーシア)での流行では、合併症が多く、エンテロウイルス71型が分離されたと報告されていますが、我が国での重症者は少ないようです。

コクサッキーA6感染の場合は、かかってから1ヶ月くらい経ってから、一時的に手足の爪が脱落することがあって、ご両親を心配させますが、とくに治療しないでも元通りに治ります。

手足口病を広げないために知っておくべき知識は、水疱が消えて口の中も治って治癒したと考えていても、その後1ヶ月くらいは患児の便からウイルスが排泄されることです。トイレ後の手洗い、おむつを換えたあとの手洗いが感染予防にとても大切なことを覚えておきたいですね。

では、手足口病にかかったら、どれくらいの期間登園できないのでしょうか?

上に述べたように1ヶ月もウイルスが便中に出るのですから、これを理由に登園不可とするのは現実的ではありません。
厚労省の「保育所における感染症対策ガイドライン」では、登園のめやすは「発熱や口腔内の水疱・潰瘍の影響がなく、普段の食事がとれること」とされています。
むろん園では、排便後やおむつ交換後の手洗いを徹底することが大切です。

⇒【参照】保育所における感染症対策ガイドライン

保育所として、独自の登園基準を設けているところもありますので、小児科医の意見(「保育所における感染症対策ガイドライン」に準じていることがほとんどだと思います)をお伝えして、通っている保育園、幼稚園の方針を確認されると良いでしょう。

今のところ、予防できるためのワクチンはありません、また、発病を抑える薬もありません。

抗生剤の投与は意味がないとされています。発疹にステロイド剤を塗ることは勧められていませんし、ステロイド薬の多用は症状を悪化させることがあるとされています。
発疹に何かしたくなると思いますが、なにもしないことが一番です。


キッズクリニック 院長 柳川 幸重