日本脳炎 | キッズクリニック ブログ

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小児科学、特に小児心臓病学を専門に大学教授としての経験を積んだ後、名誉教授になってから、自分の教え子の小児科診療所で子どもを診ています。
こどものことを中心にいろいろ書いていこうと思っていますので、よろしければお付き合いください。

【一口知識】標準的には3歳以降に打つことになっている日本脳炎ワクチンを、千葉県では生後6ヶ月からの接種を勧めているのは、数年前に千葉県内で0歳児の日本脳炎患者さんがいらしたからです。

 

ご存知の方も多いと思いますが、日本脳炎ウイルスはブタの体内で増殖します。(ブタには何も症状は起こしません)この感染した豚を刺した蚊(主にコガタアカイエカ)がヒトを刺すことによって感染します。

感染しても症状の出ないこと(不顕性感染)や軽症のことが多いですが、症状の出ることもあります。それが、日本脳炎の患者さんというわけです。ですから、どのくらいのブタが日本脳炎ウイルスにかかっているかを調べることが大切になります。養豚場のブタの日本脳炎抗体の保有状態を見ればわかるので、日本全国で定期的に調べられています。全国的な傾向として、夏から秋にかけては抗体保有率が上がってくることが報告され、千葉県内でのブタの抗体保有率も夏から秋にかけて上昇することも報告されています。そして、このブタの抗体保有率が高いとヒトへの感染も増えることも分かっています。

⇒【参照】国立感染症研究所|ブタの日本脳炎抗体保有状況 -2020年度速報第1報-

標準的には日本脳炎ワクチンは3歳以降の乳児に打たれることになっています。
しかし、平成27年秋に千葉県北部で11ヶ月児が日本脳炎に罹患し、後遺症をのこしたことが報告されました。つまり、地域によっては3歳でのワクチン接種では遅すぎることがわかってきました。たしかに、蚊は赤ちゃんも刺しますからね。このため、日本小児科学会は、現在「日本脳炎流行地域」に住んでいる、または滞在する小児へは、生後6ヶ月からのワクチン接種を推奨しています。

⇒【参照】日本小児科学会

千葉県はこれにしたがって6ヶ月からのワクチン接種を勧めているわけですね。

日本脳炎は蚊に刺されることによってうつるので、蚊(コガタアカイエカ)のいない北海道では、日本脳炎ワクチンは標準では打たれていませんでした。しかし、平成28年4月1日からは定期接種として打たれるようになりました。

近年は人の流れが活発になり、北海道の方が本州以南に転勤されることが多くなったことなどを考慮して、このようになったと思われます。保護者の方も北海道出身の方でしたら、日本脳炎ワクチンは未接種ですから、本州以南に滞在されるのならお打ちになった方が安全です。(20歳以上は自費)

もうひとつ大切なこととして、日本脳炎は日本だけにある病気ではないことも知っておいてください。

日本でよく研究されて、その本体が明らかになったので「日本脳炎」と名付けられているだけです。実際は、中国・インドも含め、広く東南アジアで見られている疾患です。したがって、仕事でこの地域に移住・長期滞在される方は、保護者を含めて日本脳炎ワクチンを接種しているかどうかを確認することをお勧めします。

日本脳炎ワクチンが一時的に積極的勧奨の差し控えになった時期の子どもさんは、母子手帳で確認して、ワクチン接種を完了したほうが安心です。(平成7年〜平成21年までの間に生まれた方)

⇒【参照】厚労省の「日本脳炎」

日本脳炎ワクチンのできる以前の1960年代までは、症状のある日本脳炎にかかる人は、日本では年に4000人以上いたことがわかっています。積極的ワクチン接種が行われた昭和42〜52年(1967〜77)以降は、年間10名程度の数に激減していることから、このワクチンの臨床的効果は素晴らしいことがわかります。

海外から日本および東南アジアに来る旅行者は、必ずトラベルワクチンとして日本脳炎ワクチンを打ってくるとのことです。日本に住んでいて、しかも、無料で定期接種できるワクチンですから、遅れずにしっかり打っておいた方がよいですね。

日本脳炎ウイルスへの特効薬はありませんから、ワクチンによる予防が非常に大切です。

注:日本脳炎ワクチンの一時的供給不足について
製造上の問題から1社からのワクチンの製造供給が止まっていましたが、現在は再開されています。しかしその影響は、本年度中は続くと言われています。小児科学会は、1期2回接種を優先して接種するように勧めています。
厚労省「日本脳炎」参照)


キッズクリニック 院長 柳川 幸重