溶連菌(ようれんきん)感染症 | キッズクリニック ブログ

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小児科学、特に小児心臓病学を専門に大学教授としての経験を積んだ後、名誉教授になってから、自分の教え子の小児科診療所で子どもを診ています。
こどものことを中心にいろいろ書いていこうと思っていますので、よろしければお付き合いください。

【一口知識】ようれんきん感染についての大切な知識は、
「ようれん菌をしっかり退治しておかないと、腎臓や心臓が悪くなるかもしれない」ということです。


4月中旬から5月にかけて、発熱する子どもが増えてきます。入学・入園など今までと異なった環境に入るので、接したことのない新しいウイルスや細菌にさらされる機会が多くなるからですね。この発熱の原因の一つに溶連菌感染症(ようれんきんかんせんしょう)があります。

お母様方には耳慣れた診断名かもしれませんね。よく聞く診断名の割には、その病気の内容をご存知ないご両親が多いように思われますので、今回は溶連菌感染についてのお話にしたいと思います。

小児科の外来で診断としてお伝えする「溶連菌感染症」の正式の名前は、「A群溶血性連鎖(レンサ)球菌咽頭炎」です。A群ということはB群もあるのですか、と聞かれそうですが、ちゃんとあります。このB群の感染は、新生児に感染すると困る病気なのですが、混乱するのでここでは触れないことにします。

「溶血性」というのは、かかった子どもの血液を溶かす「溶血」するのではなく、この細菌を培養したときの培養液に含まれる血液を溶かすので、この名前が付けられています。「連鎖(レンサ)」というのは、この細菌は、顕微鏡で見ると鎖のようにつながって見えるからです。

この細菌は、喉の炎症(咽頭炎)や皮膚のおでき(化膿性皮膚感染症)の原因菌としてよくみられます。

溶連菌感染症(溶連菌性咽頭炎)は抗菌薬(抗生物質)が簡単に使えるようになる前の時代には、「猩紅熱(しょうこうねつ)」というこわい状態を起こす細菌として知られていました。

溶連菌咽頭炎は、ノドの細菌を診断キットで調べて「ようれんきんですね」と、軽くお伝えする割には怖い病気なのです。

突然発熱して、ノドが痛く、だるくなって、吐くこともあります。イチゴ舌と言われる特徴のある舌になり、発熱後、半日〜1日で皮膚が日焼けしたように赤くなります。(これが「猩紅熱」と言われる理由です)この赤くなった皮膚は、触るとざらざらと紙やすりに触れているような感じになるのが特徴でもあります。口の周りだけは、青白く見えることもあります。

昔はこのような特有の症状で診断していたのですが、現在では診断キットで、短時間で診断可能になっています。診断キットでは陽性に出ない場合でも、ここに述べたような症状があれば、抗菌薬で治療することが多いでしょう。

治療は、抗菌薬を10日間飲むという簡単なものです。抗菌薬の種類によっては5〜7日で良いこともあります。大切なことは、熱が下がっても、処方された分は最後までちゃんと飲むことです。

なぜ、最後までちゃんと飲まないといけないかというと、溶連菌をしっかり退治しておかないと、免疫反応として急性糸球体腎炎やリウマチ熱のようなこわい合併症を起こすことがあるからです。

溶連菌感染後急性糸球体腎炎(post-streptococcal acute glomerulonephritis ; PSAGN)では、溶連菌感染後、平均10日〜2週間くらいから、血尿、浮腫(むくみ)、高血圧、腎不全などの症状がでてきます。血尿は、真っ赤な色というより、茶色に近い色のこともあるので要注意です。軽い症状で済むことが多いですが、透析治療が必要なほどになる方もいます。3歳未満ではほとんどありませんが、5〜12歳までの子どもさんに多く見られます。幸いにして、絶対安静にしているだけで良くなることが多いです。

スポーツマンの中学生が、全身痙攣を起こして救急車で運ばれてきて、高血圧による全身痙攣であったことから、この疾患であると診断できた経験があります。

リウマチ熱は、溶連菌咽頭炎の合併症として昔から知られていました。関節炎(関節痛)、心炎、舞踏病などを引き起こすこわい病気です。とくに心炎は、心不全を起こして生命を脅かすこともあります。典型的な心臓弁膜症として知られる僧帽弁閉鎖不全(僧帽弁逆流)を起こし、成人では僧帽弁狭窄症になっていくこともあります。

このような怖い合併症がどのようにして起こるかということは、細かくはわかっていません。

しかし、咽頭に溶連菌が居ると、それを攻撃しようとして、子どもの身体がそれに対する抗体を作って攻撃しますが、その抗体がたまたま、その子の腎臓と心臓を攻撃する抗体としても働いてしまって、腎炎や心炎を起こすのだろうと考えられています。溶連菌咽頭炎になった子どもの全員にこのような合併症が見られるわけではなく、ごく一部の方にだけ見られることのようです。しかし、どの子が危なくて、どの子が大丈夫かはわからないので、かかった全員を治療しているわけです。

また、しっかり溶連菌を退治しておかないと、免疫反応が起こりやすいので、抗菌薬をちゃんと最後まで飲むことが必要になっているわけですね。

溶連菌感染と診断された子どもが、いつから登校、登園できるかは、抗菌薬を飲み始めてから24〜48時間後(厚労省のガイドライン)からであるとされています。お友達にうつしてはいけませんからね。

糸球体腎炎が起こってこないかどうかを調べるために、感染後2〜3週間後の尿検査を勧めることが多いです。腎炎の症状はどこかが痛くなるようなものではないので、子どもさんご本人は何も言いません。それで、尿検査で血尿の有無を調べているわけです。

まれなことですが、溶連菌は身体、とくに手足の組織に壊死を起こし、敗血症性ショックを起こす激症型溶血性レンサ球菌感染症を起こす(人食いバクテリアとも言われます)こともあることが知られています。よくわかっていないことが多いので、ここでは触れませんでした。


キッズクリニック 院長 柳川 幸重