新型コロナウイルスの流行と子どもの風邪 | キッズクリニック ブログ

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小児科学、特に小児心臓病学を専門に大学教授としての経験を積んだ後、名誉教授になってから、自分の教え子の小児科診療所で子どもを診ています。
こどものことを中心にいろいろ書いていこうと思っていますので、よろしければお付き合いください。

新型コロナウイルスの流行が始まってから1年になりますが、まだ、おさまる気配はないようですね。
3密を避け、マスクと手洗いを心がける生活が続いています。

新型コロナウイルスの予防のためのこの習慣が、多くの感染症の感染者数を減少させているのをご存知でしょうか?

有名なこととしては、昨年のインフルエンザの感染者数が劇的に減少したことが知られています。

厚労省は、毎年9月の始めから翌年の5月末までの間、1週間ごとにインフルエンザの発生数をまとめて報告しています。これによると、昨年(2020年)8月31日から今年(2021年)1月10日までの累積患者数はたったの664人で、過去5年間の同期間の平均患者数 約35,6万人の0.2%弱であるとのことでした。昨年は、インフルエンザの患者さんはほとんどいなくなったと言っても良いかもしれません。

昨年はインフルエンザだけでなく、新型コロナウイルス感染症以外のほとんど全ての「流行性疾患」が流行しなかったことがわかりました。

お母様方によく知られている「A群溶血性連鎖球菌」いわゆる「溶連菌:ようれんきん」は、昨年4月頃から例年より感染者数が激減して、過去最低の数になっています。冬に向かって感染者数が多くなる「RSウイルス感染症」も「マイコプラズマ感染症」の数も、昨年までの最低患者数よりも遥かに少なくなっています。また、予防接種による予防が効果的な感染症としてよく知られている、麻疹・風疹、水ぼうそう、おたふくかぜの患者数も例年よりも激減しています。これは予防接種の接種者が増えたせいではありません。

新型コロナウイルス感染症の予防のためにおこなっている『3密を避け、マスクと手洗いを心がける生活』が、他の感染症の流行も防いでいるのは確かなようです。

このように、ほとんど全ての感染症の患者数が減少する中で、例年に近い患者数を保っていて減っていない病気があります。それは、高熱が3、4日間続いてから解熱した時に体に薄い赤色の発疹が出現することでよく知られている「突発性発疹症:突発疹(とっぱつしん)」です。

突発性発疹症は、1歳前後にほとんど全ての赤ちゃんがかかる病気です。大部分の成人は罹患したことがあり、自分の体のなかにウイルスをもっていながら、抗体も持っています。赤ちゃんが生まれた時には、母親からもらった抗体を持っているのでかかることはありませんが、生後10ヶ月くらいになると、その抗体が少なくなってきて、ご両親のいずれかからうつると言われてきました。多くの感染症の患者数が減っている今のこの時期に、感染者数があまり減らない突発性発疹症は、やはり家族内感染が主体であったと証明されたことになるようです。

今はほとんどの感染症が流行していません。これが、現在どこの病院の小児科でも小児科診療所でも、患者さんの数が少なくて空いている理由のひとつです。
赤ちゃんや乳児が風邪をひかないのはとても良いことなのですが、これがずっと続くと心配になってきます。それは、普通の風邪には乳児期・小児期のうちにかかっておいた方が良いのではないかという考えがあるからです。

コロナウイルスは、もともと風邪を起こすウイルスです。「新型」コロナウイルスの「新型」という言葉は、今までの風邪の原因となるウイルスとは異なった「新しい」つまり成人は抗体をもっていないウイルスであるということです。

成人してから子どものかかる流行性の病気にかかると、重篤になることが多いことは、昔から知られていますね。それで、成人とくに老人は、新型コロナウイルスに罹患すると重篤になりやすいわけです。

一方、子どもであるということは、かかる風邪はすべて「子どもにとっての新型ウイルス」によるものであるということになります。このようなウイルス性の風邪に対して子どもが弱いのでは、人類は滅亡してしまいますから、子どもは成人とすこし異なった免疫システムを持っていて「新型ウイルス」に対しても強く対応できるようになっていると考えられています。

これが、現在流行中の「新型コロナウイルス」に子どもが罹患しても重篤にならない理由の一つであると思われています。
新型コロナウイルス感染で子どもは悪化しないということは、小児科学会も報告しています。
【参照】小児のコロナウイルス感染症2019(COVID-19)に関する医学的知見の現状

今の大人が子どもの時にかかってきた風邪には、子どものときにかかっておいた方が良いのではないかと思えます。新型コロナウイルス感染症がおさまった時には、国民は「3密を避け、マスクと手洗いを心がける生活」をやめていくでしょうね。そうなりますと、これまでかからないでいた子どもの感染症が爆発的に増えるでしょう。それでも、それはそれで子どもの将来には良いのではないかと考えて、慎重に落ち着いて対応するのがよいと思います。

注:新型コロナウイルス感染症流行中の今の時期でも、減らない感染症がもう一つあります。いわゆる「性病」(性感染症)です。お母様方にも赤ちゃんにも関係ないので、触れませんでした。


キッズクリニック 院長 柳川 幸重