離乳食に果汁は不要です | キッズクリニック ブログ

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小児科学、特に小児心臓病学を専門に大学教授としての経験を積んだ後、名誉教授になってから、自分の教え子の小児科診療所で子どもを診ています。
こどものことを中心にいろいろ書いていこうと思っていますので、よろしければお付き合いください。

離乳食についてもう一言。
子供の数が多かった頃は、手作りの離乳食を与えている家庭は近所にたくさんいましたので、新たにお子様を授かったお母様も近所の人に聞きながら子育てをしてきました。
しかし、少子化時代の近年はネットがその替わりになっているようです。

ネットでいろいろ知ることは便利なのですが、偽りの情報も入っています。悪意はないけれども、正しくない、またはその知識はご自分のお子様には正しかったかもしれないけれども、一般的な知識としては誤りであることもあるでしょう。自分の仕事にとって儲かるような情報を流していることもあるでしょう。興味のある記事があったときは、その記事がどのような人・組織から出されているかに注意するようにすると良いですね。

一番信頼できるのは、厚生労働省(厚労省)や学会などの公的機関から出されている情報です。このような情報には、知りたいことについてはっきり言っていないことがあります。それは、現在の医学ではまだわかっていないこともあるからです。個人からの情報は、その情報がどこからきているものかに注意しましょう。公的機関の情報は長くてわかりにくいことが多いので、それをまとめてくれているものなどは安心ですね。

ただ医学において「正しいこと」は時代とともに変わっていきます。医学・医療が進歩していくからですね。そのため以前には厚労省の勧めていたことが誤りであり、変更されることもあります。

その一つに、離乳食における果汁の与え方があります。

15年くらい前までは、離乳食の「準備」として、月齢3ヶ月頃に薄めた果汁(天然100%果汁を薄めたもの)を与えることが勧められていました。異なった味に慣れさせるためとか、母乳にはビタミンCが少ないので果汁を与えるのが役立つからという理由だったようです。確かに、母乳とは異なった舌触り、香り、味ではあり、特に甘みが強いのが果汁です。甘みに関しては、母乳に含まれる乳糖の軽い甘みよりも、5、6倍も甘い果汁を与えるのは問題のようです。この甘みに慣れてしまったらむしろ困ることになるでしょう。母乳やミルクの摂取量が減ることも心配されます。母乳やミルクの量が減ると、体を大きくしていくのに必要なタンパク質、脂質が減ってしまうので大問題です。また、果汁を早期に与えることは乳児期以降の甘いものの過剰摂取傾向と関係して、肥満とも関係するという意見もあります。

そんなわけで、現在では、離乳早期に果汁を与えることは望ましくない、というのが一般的な意見になっています。米国小児科学会は2001年から乳児への果汁投与を勧めなくなっていますし、2007年からは厚労省も「果汁は栄養不足につながるので必要ない」と判断して、母子手帳にも果汁に関する記載がなくなりました。

時代とともに、より信頼できるより良い離乳食の進め方が、勧められているのですね。

注1:ここで述べたのは「果汁」についてで、「果物」ではありません。果物は食べられるものから離乳食に使っていって問題ありません。
注2:2019年3月の厚労省発行の「授乳・離乳の支援ガイド」(とても長い書類です)の真ん中あたりの30頁『 II-2 離乳の支援 2離乳の支援の方法 』の項に「離乳の開始前の子どもに果汁やイオン飲料を与えることの栄養学的な意義は認められていない」と記載されています。
⇒授乳・離乳の支援ガイド

キッズクリニック 院長 柳川 幸重