空が青いから白をえらんだのです、
この詩集のタイトルになりました。
奈良少年刑務所の更生教育からうまれた
詩集です。
自分で書いた詩を自分で読みます。
普段あまり喋らないA君が
この詩を自ら朗読したとたん、
堰を切ったように語り出したそうです。
「つらいことがあったら空を見て。
そこにわたしがいるから」
それがA君のお母さんの最期の言葉でした。
「お父さんは体の弱い母さんを
いつも殴っていた。
ぼく、小さかったから、
何もできなくて…」
教室の仲間たちが手を挙げ、
次々に語り出します。
『「ぼくは、おかあさんを知りません。
でも、この詩を読んで、空を見たら、
ぼくもおかあさんに会えるような
気がしました。」
と言った子は、
そのままおいおいと泣きだしました。
自分の詩が、みんなに届き、
心を揺さぶった事を感じたAくん。
いつにない、
はればれとした表情をしていました。』
(「空が青いから白をえらんだのです」より)
この更生教育は
「社会性涵養プログラム」と名づけられ
刑務所の中でも皆と歩調を合わせられず
虐待された記憶があったりして
心を閉ざしがちな人々が対象になります。
このプログラムは以下の
3要素で構成されています。
① SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)
② 絵画
③ 童話と詩
①SSTは基本的なコミュニケーションを
学ぶ教室です。
受刑者は挨拶などの基本的な事を
学びます。
叩き込む教育ではなく
ロールプレイングなどを通じて
自ら発見していくようにします。
②は三原色、暖色と寒色など
絵画の基本を学び実際に絵を描いてみます。
③の童話と詩が
この詩集の編者である寮美千子さんが
担当しています。
寮さんは最初からこうすると
決めてはおられず受講生の反応を見ながら
手探りで進められます。
アイヌ民話を題材にした絵本の概要を話し
朗読しさらに芝居にしてみます。
1回目2回目は絵本を読み
3回目で金子みすゞ、まどみちおの詩を
教材にしています。
文庫本のあとがきに
6期目のエピソードが出てきます。
まどみちお氏の「ぞうさん」を
皆で歌い踊ろうと受講生に言うと
1人が嫌だ、幼稚すぎると言い出します。
5期目までは全くなかった事でした。
「どうして?この歌知ってるでしょう。
一度でいいから、歌ってみようよ」
「知らない」
「え?幼稚園とか小学校で歌わなかった?」
「幼稚園も小学校も行ってない」
生まれてから日本に育ち
「ぞうさん」の歌1つ歌わないまま
育ってしまう子がいるのだと
寮さんは後悔します。
知っていると決めつけてはいけない。
心から彼に「ごめんね」と謝りますが
授業の間彼はずっと反抗的でした。
ところが授業の締めくくりの挨拶で
「わがまま言って、ごめんなさい」と
実に素直に謝ります。
寮さんはびっくりし、胸が詰まります。
反抗せざるをえないけれど
受け入れられたいのです。
教官たちは彼らが出所後
普通に就職し
社会に向き合って生きていけるように
願っています。
でも逆に
ぼくはふと思います。
彼らを受け入れていける社会に
日本の社会はなっているのだろうか?
「社会性涵養プログラム」というのは
必要な事であり重要な事と思います。
それは揺るぎなくそう思います。
一方で社会はそれに見合った優しさを
持たなければならないと思います。
2011年7月22日ノルウェーで
首都オスロの政府庁舎を爆破、
2時間後にウトヤ島の
与党労働党の青年集会で
10代を標的に銃を乱射し
77人を殺戮したテロ事件が発生しています。
「これほどの暴力だからこそ
より人道的で民主主義的な回答を
示さねばならない。」と
事件発生当日、首相は主張しました。
事件の中で殺戮を免れた
10代の少女
「1人の男が
これほどの憎しみを見せたのなら
私たちはどれほど人を愛せるかを
示しましょう」
翌日首相はこの言葉を支持し
「相手をもっと思いやることが
暴力に対する答えだ」とスピーチ。
また別の日には
9・11以降のアメリカを引き合いにし
「私たちは報復を求めない」とまで
言い切っています。
(『「テロに屈するな!」に
屈するな 』より 森達也著)
その国の持っている歴史や人口、風土など
色々のものがあるとは思います。
ノルウェーも以前は
厳罰主義だったと言います。
現在は死刑制度も廃止され
最高禁固刑は禁固21年だと言います。
ウトヤ島の犯人ブリイビクは
最高刑の禁固21年で現在も服役中です。
当時のテロ事件のニュースは
知っていました。
しかしノルウェーの刑法がどんなんか?
とか、
犯人がその後どうなったか?とか
実はあまり関心がありませんでした。
この森達也さんの本で
衝撃的にその事実を知りました。
ノルウェーの被害者の少女や首相と
「社会性涵養プログラム」の
受講生と教官たちには
同じものを感じるのです。
