函館ちゃんちゃんこ物語46
道場海峡男、間本久直、山高ー焚人ー潔、深間克明の、
通称「ちゃんちゃんこ軍団」は、年に数回、不定期に総会を開く。
今回の会場は、
いつもの団員の部屋ではなく、久しぶりに海岸町の焼き鳥屋「かしらや」。
そこで極秘の「軍団会議」が開かれていた。
恋する季節(3)
間本久直の場合
焼き鳥屋「かしらや」でのちゃんちゃんこ軍団の定期総会は、深間の、野々村さんとの「のろけ話」の予定で、深間はもちろん、海峡男も山高もそのつもりで来たのであるが、
「おれさあ、うちの横野が可愛いんだよお・・」
の間本の一言で、話題は一気に、間本久直を無責任に励ます方向へ向かってしまった。
海峡男としては、横野さんは以前から知っている人だったので、周りの連中が無責任に、彼女のことを話題にして欲しくはなかった。ただ、学生番号が一つ前というだけで特別な関わりはなかったので、「ホヤホヤ」言って、適当に話を合わせていたが、本心は、「俺の女に手を出すな」的に考え、なぜか微妙な気持ちであった。
深間も本当は、野々村さんのことを話したいので、間本の話には、全く乗り気ではなく、ほぼ死んだ目で、たまに「ヒューヒュー」と言いながら、まずそうにビールを飲んでいた。
山高はというと、以前からの抜け毛がいよいよ深刻で、常時もっている手鏡を見て、おでこの前髪の生え際の手入れをしながら、適当に「ホイホイ」と声をあげていた。
話の中心?になっていた間本は、日本酒を注文し、みんなにお酌をしながらしゃべりまくっていた。よほど楽しいのだろう。
「・・・それでさあ、橫野はいつも俺に会うと・・・」
「なあ、海峡!おはようございますって言うんだ・・・」
「それがまた可愛い!・・・だろ!山高」
いつもは酔いつぶれたナマケモノのように、無反応な間本が、雄弁で、やる気がみなぎっているようだった。
「いやあ・・・深間!、恋ってホントに楽しいなあ」
自分の世界に浸りきっているので、周りの空気は全く読もうともしない間本久直。間本の話について行けなくなったほかの3人は、次第に間本に背を向け、たまに「ホヤホヤ」「ヒューヒュー」「ホイホイ」と合いの手を入れて、別の話をしていた。
しかし間本はそんな状況には気付いてはいなかった。会話には全くなっていないのであるが、間本は満足そうに日本酒を飲んでいた。
函館の夜は、こうして無意味に更けていった。
続きます
※おことわり
この物語は、実際にあったかどうか疑わしいことを、作者の老化してぼんやりした記憶をもとに書かれていますので、事実とは全く異なります。登場する人物、団体、名称等は、実在のものとは一切関係はありません。
また、物語の中の写真はすべてイメージです。
「函館ちゃんちゃんこ物語」
毎年届く年賀状。その中には学生時代の懐かしい仲間のものもある。ここ数年多くなったのが「退職」の知らせだ。いつの間にかみんな年を取った。
道場海峡男(どうばうみお)は、本棚の隅から、大学の研究室の機関誌「学大地理」を取り出した。色あせた機関誌だが、40年前の懐かしい思い出の数々が鮮明に蘇って来た。
研究室の仲間、ちゃんちゃんこ軍団の同志、4年間の輝く函館の歴史がここにある。