函館ちゃんちゃんこ物語35
「函館ちゃんちゃんこ物語」
毎年届く年賀状。その中には学生時代の懐かしい仲間のものもある。
ここ数年多くなったのが、「退職」の知らせだ。いつの間にかみんな年を取った。
道場海峡男(どうばうみお)は、
ふと、大学の研究室の機関誌「学大地理」を本棚の隅から取り出した。
色あせた機関誌だが、一瞬のうちに学生時代の記憶が蘇り、心がときめいた。
快適な函館ひとり暮らし
不気味な夜、階段を上がって西の方角、5,6件の家の屋根越しに見える、アパートの一室の「明かり」・・・闇の支配者「奥出大蔵」のいる部屋だ。この明かりを見ると、全てが狂気と幻影の世界に引き込まれる。
その奥出の部屋の明かりにさえ気を付ければ、道場海峡男の、函館でのひとり暮らしは快調そのものだった。
休日となると、一番の仕事は買い出しだ。ほぼ一週間分の食材を近くのスーパー十字屋に買いに行く。1970年代後半、当然のことながらコンビニはまだない時代である。函館では・・・である・・・(たぶん・・・)。
スーパーとはいっても、今のようにお総菜はほとんどないし、冷凍食品も種類は限られているので、・・・函館ではである・・・(たぶん・・・)自分で調理するために、肉や野菜、卵といった材料を買ってくる。
もやしとミックスベジ、卵、缶詰、コンビーフは常備していて、朝食の友、納豆も当然確保している。これらがあれば、当面は暮らしていける。
海峡男の家の3軒隣には、安くてうまい定食屋さんがあり、ご飯時には学生でいっぱいになるが、シャイな海峡男は友人と一緒なら行くが、ひとりの時は知り合いに会うのがいやだったので、海峡男はほとんど行ったことはなかった。
ガスボンベとレンジは、前に住んでいた大学の先輩お姉さんが置いていったものがあり、定期的に近くのお米屋さんでガスを充填してもらった。
けっこう快適ではあったが、困るのは、料理途中でガスがなくなることだ。せっかく気合いを入れて料理している最中に、ガス切れになり、名シェフの料理も、途中で終了となったこともあった。そんなときはうちひしがれて、とぼとぼと定食屋さんに行く。
気楽な一人暮らしだが、まじめな海峡男は、時々きちんと栄養のことも考えながら、健康な食生活を送っていた。
体調を崩したのは、学生生活4年間で一度だけ。風邪を引いて高熱に浮かされたが、それも市販の飲み薬を買って治した。
ただ、未公開ではあるが、二日酔いで死の淵を彷徨ったのは何度もあり、その時は、ひとり反省しながらじっと耐えに耐えた。
「もう酒は飲むまい!」
と叫んだことも、1度や2度、5度そして10度・・・ではなかった。
まあ、総合点をつけたら、82点くらいのひとりの生活だったと思う。
合格と言ってもいいだろう。
続きます。
※おことわり
この物語は、実際にあったかどうか疑わしいことを、作者の老化してぼんやりした記憶をもとに書かれていますので、事実とは全く異なります。登場する人物、団体、名称等は、実在のものとは一切関係はありません。
また、物語の中の写真はすべてイメージです。