函館ちゃんちゃんこ物語9「伝説の雀荘さとう下宿」 | 海峡kid.の函館ちゃんちゃんこ物語

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 函館ちゃんちゃんこ物語9

 

「伝説の雀荘さとう下宿」

 

道場海峡男が大学に合格して、手続きを済ませ大学から紹介してもらったのが、「さとう」下宿。

当然、当初はまさか雀荘だとは分かるはずもなく、大学が推薦するのだからと、何も考えずにお世話になることにしたのだ。

それが大きな間違い。環境としては最悪である。海峡男・・・夢に見た函館の我が家が・・・雀荘とは。。。

海峡男にとって、異国情緒ただよう憧れの函館が、崇高の山函館山が、一気に崩れ去った瞬間でもあった。

 

 

結局は1年でその下宿は出ることになるのだが、春早々、函館に行った

海峡男の夢を瞬間的に破った「さとう」下宿は、彼の4年間の大学生活を語る上で、もっとも基盤となる1年であり、心の柱が構築された場所となった。


雀荘と言っても、下宿の部屋自体にはマージャンの音がするわけではない。雀荘と関わるのは、テーブルが一つと椅子が6つくらいある小さな食堂部屋で、夜ご飯を食べていると、隣の部屋から、ジャラジャラと音がする。たばこの煙が漏れてくる。

純粋な!大学生1年生にとっては、最初は、突然戦場にでも投げ込まれたような気持ちになった。

 

そして、席に座って夕飯を待っていると、

「はいはい、お待たせ」

と、下宿屋のおばさんがラーメンのどんぶりを運んでくる。

ラーメン屋からの出前のラーメンの時は、やや冷めてはいるが十分に美味しくいただいたが、問題はときどき出てくる、おばさん手作り?のラーメンだ。

黄色い麺が太く柔らかで、具も少なく、見ただけでごちそうさまといいたくなるくらい、絶品!閉口のラーメンであった。

 

 

手作りラーメンを仕方なく食べて、津軽海峡冬景色のように寒々とした気持ちになったときには、下宿人みんなで近くの蛸川商店に行って、スナック菓子を買うことが多かった。

蛸川商店は当時、街の総合商店で、日用品から食料品まで揃う、コンビニの先駆けのようなとてもコンビニエンスな店であった。下宿人にとっては、蛸川商店は砂漠のオアシス的な存在で、贅沢の入り口という高級感のある店であった。

当時は、どこにでも蛸川商店のような、街の総合商店が地域の中心として君臨していた。

 

スナック菓子とつまみを手に入れた「雀荘さとう下宿」の住人達は、誰にも気付かれないように、ひっそりと下宿の一室で秘密の会議をもち、人生について語り合った。
 

間本久直(まもとひさなお)。さとう下宿は2年目。他のメンバーよりも1年早く入学している。優しく穏やかな性格で、歌をこよなく愛する好青年である。しかし、1年目から「雀荘さとう下宿」の餌食となり、同じ学年の連中とマージャンにはまり、多額の借金を抱えていた。我々が下宿に入った時は、かなりすさんだ生活状態であった。
 

山高焚人(やまたかふんと)。一緒に入学した3人組の一人。北海道の漁師町の出身で、足は短いが陸上部に所属する俊足である・・・みたいだ。音楽、特にクラシックをこよなく愛し、交響曲を聴いては指揮棒を振っている男である。下宿屋の玄関のすぐそばの部屋からはいつも高尚な音楽が聞こえてきた。
 

深間勝昭(ふかまかつあき)。同期入学の3人組の一人。3人の中では唯一の現役合格の秀才。年齢的には「さとう下宿」の4人の中では最年少であるが、決断力があり、あとの3人がぼやぼやしていることもあり、リーダー的な存在である。サッカー部に所属するスポーツマンで、日頃のトレーニングによる筋肉痛でいつも「ケツが割れている」?と叫んでいた。


この3人と一緒に生活を始めた道場海峡男ではあるが、しゃべることが苦手でいつも山高には「寡黙な男」と言われていた。決して不愉快なわけではなく、居心地は良いのではあるが、自分からワイワイ騒ぐタイプではなかった。時が経つにつれて、その本性が現れてくるのであるが・・・。

 

 

「雀荘さとう下宿」。

たった1年であるが、この4人で様々な伝説がつくられていく。

 

 

続きます



※おことわり
この物語は、実際にあったかどうか疑わしいことを、作者の老化してぼんやりした記憶をもとに書かれていますので、事実とは全く異なります。登場する人物、団体、名称等は、実在のものとは一切関係はありません。
また、物語の中の写真はすべてイメージです。


「函館ちゃんちゃんこ物語」
毎年届く年賀状。その中には学生時代の懐かしい仲間のものもある。

ここ数年多くなったのが、「退職」の知らせだ。先輩はもちろん、同期の仲間、若かった後輩も退職だという。いつの間にかみんなは年を取った。

道場海峡男(どうばうみお)は、ふと、大学の研究室の機関誌「学大地理」を本棚の隅から取り出し、そっと中を開いてみた。

色あせた機関誌だが、一瞬のうちに学生時代の記憶が蘇り、心がときめいた。