プロバンスのパン屋さんで 53「責任の重み」 | 海峡kid.の函館ちゃんちゃんこ物語

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 (物語)プロバンスのパン屋さんで 53

 

フランス旅行で偶然入ったプロバンス・アルルの街のパン屋さん。
そこにいたのは、仕事を辞めて以来、
一日たりとも忘れたことのない生徒だった。

この物語は、楽しい学校生活からはじき出され、
不登校になってしまった夢見る中学3年生、竹下唯(たけしたゆい)と、
定年退職後の楽しいはずの時間が、
教育センター勤めとなってしまった教育支援員、
深海航(しんかいわたる)の、
偶然の出会いから始まる、激動の半年を綴ったお話である。


 

第5章 プロバンスへの道(40)
「責任の重み」


2月13日、いよいよ私立高校の受験の日だ。
朝から雪。

竹下唯はおじいちゃんの車に乗って行くと言っていた。

先週みっちりやった面接練習の効果はどうなのだろう。
試験は、順調に書けているだろうか。
いろいろ心配なのだが、もう支援員の深海航はどうすることもできない。

唯は、先週から、受験のための打ち合わせや卒業式関係の行事などで、
学校に行くことが多くなった。
「本当は、教育センターなんかに来ないで、学校に行った方がいいのだが・・・」
と、深海は思っているが、正直なところ、唯がここに来なくなると寂しい。
今までやってきたので、どうせなら公立高校の合格を見届けたい。



 

一日空けて15日、唯が教育センターにやってきた。
深海が、受験の様子を聞いてみたところ、
「すごく緊張したけど、試験自体のできは悪くはなかった感じだし、
 面接も、練習通りにできました」
と、にこやかに答えていた。

しかし、持ってきてもらった試験の問題用紙をもとに、
深海が、まずは社会科のマル付けをしていると、

それを見ていた唯は、だんだん機嫌が悪くなって、
「最低!」

「マル付けが遅いし、訳が分からない」

「このポンコツ!」
と、悪口が始まった。


おまけに、唯が思っていたよりも点数が上がってこないので、
「あ~あ、私立でこうだから、公立は無理!定時制に願書変える!」
もう、崩壊状態・・・。
 

 

まあ、最終的には、そこそこ点数は取れそうだったので、昼食前には、
「唯様」の怒りは収まっていた。


唯がお昼ご飯を食べ始めたときに、深海は今後のことを切り出した。
「受験の情報もあるし、卒業式関係のこともあるから、そろそろ、
 ここではなく、学校に行った方がいいんじゃない?」
すると唯は、
「学校の相談ルームには行きたくない。第一、学校では勉強ができない。
 面接練習も・・・」

「ここで勉強していた方がずっといい」

「そう、ここでいいの!」
と、全く取り合わない。

「そうか・・・それならいいけど」
内心、深海はほっとしたが、
その分、深海は、受験合格という責任がますます重くなった感じがした。


続きます

この作品は創作された物語です。
登場する人物、団体、名称等は、実在のものとは一切関係はありません。
また、物語の中の写真はすべてイメージです。