プロバンスのパン屋さんで 45 「自滅」 | 海峡kid.の函館ちゃんちゃんこ物語

海峡kid.の函館ちゃんちゃんこ物語

街と空と木と花と虎と、現実と空想のブログです。

 

 (物語)プロバンスのパン屋さんで 45

 

フランス旅行で偶然入ったプロバンス・アルルの街のパン屋さん。
そこにいたのは、仕事を辞めて以来、
一日たりとも忘れたことのない生徒だった。

この物語は、楽しい学校生活からはじき出され、
不登校になってしまった夢見る中学3年生、竹下唯(たけしたゆい)と、
定年退職後の楽しいはずの時間が、
教育センター勤めとなってしまった教育支援員、
深海航(しんかいわたる)の、
偶然の出会いから始まる、激動の半年を綴ったお話である。


 

第5章 プロバンスへの道(32)
「自滅」


突然、竹下唯が、
「高校なんて、別に入らなくたっていい。定時制でもどこでもいいよ」
「あの県立高校に入ったって・・・」
と言って笑っているので、支援員の深海航が、
「唯がいいのなら、それでいいんだけど・・・」


「唯は、逃げていないか?」
と言うと、唯は、
「何言ってるの?馬鹿じゃない?!」
と言って、今度は真顔になった。
そして、しばらく何かを考えているように、下を向いていた。



 

そのうちに、
「もう帰る」
と、いつものパターン。
まだ11時前、昼に帰る予定だったが、まだかなり早い。
でも、もうここに置いてもしょうがないので、

母親に電話して返すことにした。

「もうこんなところには来ない。高校にも行かない」
そう言って唯は帰って行った。

明日は土曜日。
月曜日は、私立高校へ願書を出す日だそうだ。
いずれにしろ、唯はしばらく教育センターには来る予定はない。

「いや、もしかしたら、もうずっと来ないかもしれない」


深海は不安になった。
ここに来るのも来ないのも、生徒の自由。
また学校に行ってもいいし。

別にこの教育センターに通う義務はない。
いや、本当は学校に戻るのが一番いいのだが・・・。

 


 

深海は沈んだ気持ちで、ぼんやりしていた。

その深海に追い打ちをかけるように、教育支援室のリーダー

屋敷文夫が言った。
「今日も竹下はダメか」
「合格できる力はあるのに、結局は気持ちで負けてしまって

 合格できなかったり、受験さえしなかったり・・・、

 ここに来る生徒にはよくあることだ」
「地道に最後までがんばれば合格できるのに、自滅してしまう。
 端から見ていると、竹下も残念ながら、そんな感じだなあ」

屋敷の話を聞いて、「確かに、唯はその道を歩んでいる気がする」
深海はそう思った。
『唯を高校に合格させる』という、深海が勝手にもっている使命感・・・
やっぱり無理なのか・・・。


続きます

この作品は創作された物語です。
登場する人物、団体、名称等は、実在のものとは一切関係はありません。
また、物語の中の写真はすべてイメージです。