物語プロバンスのパン屋さんで 29「我々の仕事ではない」 | 海峡kid.の函館ちゃんちゃんこ物語

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 (物語)プロバンスのパン屋さんで 29


この物語は、
友人の心ない言葉と、
無責任な大人の行動で人間不信になり、
不登校になった夢見る中学3年生、竹下唯(たけしたゆい)と、
憧れの定年退職後の楽しいはずの時間が、
1本の電話によりはかなく崩れ去った、
元小学校教師深海航(しんかいわたる)の、
偶然の出会いから始まる激動の半年を綴ったお話である。

 

第5章 プロバンスへの道(17)
「我々の仕事ではない」


「ポンコツじじい」「くそ親父」「うざい」「はやく死ね」
可愛い顔に似合わず、激しい言葉の数々・・・。

深海航は、正直なところ、竹下唯の言う言葉の真意を図りかねる時も多い。
唯が自分を本当に信用しているのか・・・。
本当は嫌っているのではないか・・・。
面倒を見ない方が、唯にとっていいのではないか・・・。

支援員の深海にとって、唯との距離をどの程度にしたらいいのか、
自分のポジションが分からない。



 

その日は、遅番で午後3時からの勤務。

深海は、教育支援室のリーダー屋敷文夫と一緒だった。
中学校の教師であった屋敷には、現役時代もお世話になっている。

夕食の弁当を食べたあと、
教育支援室5年目、支援員のベテランである大先輩の屋敷が、

「竹下唯の精神的な不安定さには、深海先生も困りものだろう。
 しかし、難しいことはない。
 我々支援員は、ここに来て勉強したいという生徒に、
 しっかりと勉強を教えたらいいだけだ」
と言った。苦労している深海を見ていたのだろう。そして、
「心の問題は、医者に任せたらいい。カウンセラーもいるし、
 竹下が、やる気がないのなら放って置けばいい。

 そこまでは我々の仕事ではない」
と言い切った。



 

深海は、それに対しては何も言わなかった。

しかし「我々の仕事ではない」という言葉が引っかかった。


「我々の仕事は・・・・」



 

週明けの月曜日、唯は自転車で昼頃に教育センターにやってきた。
面談室が空いていたので、深海はさっそく第一面談室に唯を入れた。

その日の唯は、すこぶる機嫌がいい。
「私って変!機嫌がいいときと悪いときがある!」

と言って笑った。

 

初めて自覚したのだろうか?

今日は機嫌がよすぎて、自分でも違和感があったのだろうか?

 

深海航は、

「いつものことだろう」

と言いそうになったが、やめた。


「どうした今日は、いいことあったのか?」

 

 

 

 

続きます

この作品は創作された物語です。
登場する人物、団体、名称等は、実在のものとは一切関係はありません。
また、物語の中の写真はすべてイメージです。